「幼稚」な政策、健康にも悪影響
NAM会員で生物統計学を専門とし、フレッドハッチンソンがん研究センターとワシントン大学の名誉教授を務めるエリザベス・ハロランは、長期的な問題点を指摘する。「科学資金が不足すれば、定量研究の担い手を含む医療専門家の育成が数世代にわたって停滞する。そうなれば、疾病予防や治療によって健康状態を改善する米国の能力は、今後数十年に及び悪影響を被る」
NAS会員のマイケル・ストランドは、科学予算削減案の「狭量さ」を嘆く。「現政権が提案する予算案の悲劇は、研究開発をいかに狭く捉えているか、とりわけ基礎研究の驚くべき多様性こそが予期せぬ応用研究へとつながることを認識していない点にある」とストランドは指摘。「この盲点は、資金の不足分を民間セクターが担うとする主張と結び付いているが、明らかに誤った幼稚な考えだ。こうした認識のズレは、科学界にとって非常に苛立たしい」
世界との競争
書簡は国際的な影響についても警告し、特に中国との競争について警鐘を鳴らしている。科学予算の削減は「不可欠な経済的原動力を弱め、イノベーションを遅らせ、公衆衛生を危険にさらし、若き才能の育成を妨げ、わが国の教育制度を損ないかねない」と指摘。「最も懸念されるのは、科学技術において米国が発揮してきた世界的リーダーシップを中国のような国に明け渡すリスクだ。中国は、官学連携において米連邦政府と米大学の(これまでの)手法を採用しているうえ、研究開発への投資を急拡大している」と訴える。
中国や欧州各国は、米国の混乱に乗じて優秀な科学者を引き抜こうと動いている。米国から中国や欧州への頭脳流出が起こる可能性についてリールに尋ねると、「友人たちの話によれば、それはすでに始まっている。粛々と」との答えが返ってきた。
「すでに他国と調整を済ませ、移住した人もいる。学生たちも、米国以外の国に留学を申請している」とリールは続け、諸外国からの破格のオファーに関する報道に言及。「ある著名なノーベル賞受賞者には、中国から無条件で20年間の資金提供を行うとの申し出があった」と語ったが、これは米スクリプス研究所の神経科学者アーデム・パタプティアン教授の引き抜きを中国が試みている件を指している。


