日本にもゆかり、旗振り役のウォルター・リールとは
今回、書簡の呼びかけ人となったウォルター・リールは、カリフォルニア大学デービス校で特別教授を務める生化学者で、昆虫の化学的コミュニケーションに関する先駆的研究で国際的に名高い。ブラジルに生まれ、同国で教育を受けたのち、日本で博士号を取得。その後、米市民権を得て、現在はNAS会員であるとともに複数の科学学会のフェローも務めている。
これまで政治的な提言に関わったことはなかったが、連邦科学予算の削減案が明らかになったとき、行動しなければならないと感じたとリールは筆者とのやりとりで強調。米国における連邦政府と大学の数十年にわたる官学連携について「すでに確立され、成果を上げている」「代替案などない。これが唯一の方策だ」と述べた。
社会に迫る危機、代償は次世代に
リールは米国がどんなリスクにさらされているのかを具体的に説明した。「米国では、これまで新技術や新薬を発見してきた。国民はその恩恵を長きにわたって得られるはずだった。だが今や、私たちは対価を支払わなければ新技術や新薬を得られなくなりつつある。他国の知識に対価を支払わねばならなくなっている」
つまり、かつて発見とは米国の研究所で生まれるものだったが、今後は中国や欧州から発見がもたらされ、米国は命を救う治療法や技術に高いコストを支払わなければならなくなるということだ。
そして、ひとたび研究の勢いが失われれば、容易に回復はできない。「研究というのは、中断したらおいそれと再開できるようなものではない」とリールは警告する。「一度やめてしまえば、あまりにも多くのものが失われる。原状回復には長い時間がかかる」
そして、最大のリスクが顕在化するのは次世代においてだとリールは言う。「研究者になろうという若者が米国からいなくなるだろう。『科学は進むべき道じゃない。衰退している分野だ。別の進路を探そう。科学とは距離を置こう』と考える学生が増えるだろう」


