ロシア軍は過去3年半にわたり、ウクライナ全土で商業施設や学校、集合住宅、介護施設、病院、文化センターなどの民間施設をドローン(無人機)やミサイルで破壊してきた。2024年の世界経済フォーラムの推計によると、ウクライナの再建には1兆ドル(約147兆円)以上の費用がかかるとみられている。
ウクライナ全土で増加する民間人の犠牲
国連難民高等弁務官事務所(UNHCR)は、ロシア軍によるウクライナの民間人居住区への攻撃により、同国の人口の約4分の1が避難を余儀なくされていると報告した。安全を求めて近隣諸国へ避難したウクライナ人は約700万人に上り、約370万人は国内で避難生活を送っている。
ロシア軍のドローンやミサイル攻撃から逃れられなかった人々もいた。民間人の死傷者は増加の一途をたどっており、国連ウクライナ人権監視団(HRMMU)によると、6月だけで232人が死亡し、1343人が負傷した。国連は、ウクライナの民間人の被害を軽減するための措置をロシア側がほとんど講じていないことも明らかにした。これらの被害は特に6月に公表された国連の報告書で詳細に記録されている。国連は、戦闘の激化と戦術の変化により、ウクライナでは、ここ数カ月間で民間人の犠牲と人権侵害が大幅に拡大していると説明した。この状況は7月、8月を経た現在も改善されていない。HRMMUのダニエル・ベル団長は、ウクライナ侵攻は4年目に入り、民間人の死者が増加していると指摘。国連は「国際人道法上の義務に反する暴力を記録し続けている」と強調した。
ウクライナの被害は、ロシア軍による民間人居住区への攻撃によるものだけではない。米紙ニューヨーク・ポストは6月、3万5000人を超えるウクライナ人児童が「ロシア軍に連れ去られ、洗脳プログラムに強制的に参加させられている」と伝えた。米紙ニューヨーク・タイムズと米政府系「ラジオ自由欧州(RFE)」が報じたところによると、ロシアは2022年に全面侵攻を開始して以降、少なくとも6つのウクライナの都市を破壊した。部分的に破壊された町や村は多数に及ぶ。ウクライナ軍と志願兵の部隊からは数千人の死傷者が出ていると推定されている。
ロシアの軍事侵攻がもたらす経済への影響
ロシアによる軍事侵攻の影響はウクライナ国内にとどまらない。国際社会には二次的な影響が及んでいる。
例えば、世界の食料価格への影響だ。侵攻の初期段階で、ロシア艦隊が黒海で海上封鎖を敷いたことにより、ウクライナは農産物を他国に輸出できなくなり、世界的な食料危機を招いた。同国は世界有数の農業国で、世界中の多くの国がウクライナ産の穀物に依存している。
欧州連合(EU)の執行機関である欧州委員会は、ロシアの軍事侵攻がウクライナの穀物輸出を「劇的に減少させた」と報告。同国の穀物輸出の減少は「世界中の数百万人もの人々に食料安全保障上の大きな懸念を引き起こした」と指摘した。
ウクライナ産穀物への依存度が特に高いのは、アジアとアフリカ諸国だ。EUと国連は、ロシアが黒海で展開する海上封鎖を迂回(うかい)して、ウクライナ産穀物を国外へ輸送する仕組みを確立した。ロシアによる黒海の海上封鎖はその後解除されたものの、欧州委員会の報告によれば、ウクライナの現在の小麦輸出量は約200万トンで、侵攻前の約400万トンを大幅に下回っている。アジアやアフリカの国々の多くは依然として食料危機の影響を受けており、これがいつ、どのように解決されるのかは不透明だ。



