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2025.08.29 20:00

「人間くささ」「テックと危機感」「社会は地層」。社会を根本から問うポッドキャスト3つのこぼれ話

日本IBMが展開するポッドキャストシリーズ「成長を賭けた7つの決断」「誰かに話したくなる“生成AI”、“ミライ”の話」に続く、三弾目のテーマは「グレートリセット」だ。ホストを務める同社執行役員・藤森慶太(写真左。以下、藤森)と、外部ゲストでビジネス・教養系番組を主に制作するPodcast Studio Chronicle代表・野村高文(同右。以下、野村)が個人、テクノロジー、リベラルアーツの視点で縦横無尽に「グレートリセット」を語った。

本記事は、収録を終えて思考が深まった2人のスピンオフトーク。収録では語り切れなかった話を深堀りした。


――まず、藤森さんにお聞きします。生成AI、ミライときて次のテーマがなぜグレートリセットなのでしょうか。

藤森:時代が大きな転換点を迎えるいま、社会・経済などのあらゆる領域で既存システムの不適合・不具合が起き、「詰んでいる」のではないかと思うのです。テクノロジーがものすごいスピードで進化しているのに対し、インフラや倫理的・社会的ルールの整備が追いついていません。

人々はテクノロジーの進化によって可能になる未来を夢描きますが、その実現にはクリアすべき課題が山ほどあります。それらを置き去りにして、テクノロジーだけが進化していった先には、崩壊が待っているかもしれません。

この状況を打開していくためには企業も個人も新しい考え方が必要ですし、先に述べたソフト面の整備が不可欠。だからこそ、根本的な見直しを意味する「グレートリセット」というあえて強めのワードを打ち出しました。単に「シフト」では変われない気がしますね。そんなぬるい話ではないです。

日本IBM執行役員・藤森慶太
日本IBM執行役員・藤森慶太

価値が高まるのは「個人的なこと」「意味のある長尺」

――収録したエピソードは3部展開で、第1部は「野村さんの個人的なグレートリセット」がテーマでした。野村さんご自身のキャリアを振り返るなかで、AI時代に価値が高まる情報について言及されていました。情報価値にもリセットの局面が訪れているのでしょうか。

野村:現代は、解説コンテンツのような“わかりやすく伝える情報”の価値が著しく低減していると感じています。解説や正解は、AIから簡単に得られますからね。

ではこのAI時代、人間がつくるコンテンツの価値はどこにあるのか。それは、正解を提示した上で展開する「だから私はこう解釈しました」「私の経験に即してこう思いました」といった人間らしさ、人間臭さ、偏りのあるコンテンツではないでしょうか。

「パラサイト 半地下の家族」でアカデミー作品賞を取ったポン・ジュノ監督が授賞式のスピーチでこう話していたんです。『最もパーソナルなことこそ、最もクリエイティブである』。これは、彼が尊敬しているというアメリカ映画監督の巨匠、マーティン・スコセッシの引用なんですね。

個人的なことを掘り尽くすと、当人とは異なる属性の人にも届く価値が生まれる。これはAIからは生まれない情報だと考えます。そうすると、コンテンツにはある程度の「尺」が必要。長尺コンテンツが人に作用するという持論は、収録でもお話しさせてもらいました。

藤森:長尺コンテンツでいえば、「国宝」を思い出しました。台詞がないシーン、素人目では不要に感じた動きのないシーンもありましたが(笑)、最終的にはじんわりとした感動が残りました。これが少し不思議だったんですよ。3時間という上映時間の長さによるものだったのかもしれませんね。

野村:一見、なくてもよさそうな台詞の「間」や動きのないシーンが、鑑賞側に考える時間を与えているのでしょうね。そうした“直接的に答えを出さないものが人に作用する”ことは、実はさまざまな理論でも補強されています。

例えば、アメリカの社会学者・マーク・グラノヴェッターが提唱した「弱い紐帯の強み」。簡単に言うと、友人や家族のような「強いつながり」よりも、たまにしか会わない人やその場に居合わせただけの人など「弱いつながり」の方が、自分を変化させてくれる情報をもたらしてくれることが多い、という理論です。

藤森:友人や家族は自分と“同質”の存在であるがゆえに、彼らからは新しい視点や考えがもたらされにくい――これは、ビジネスにも当てはまりますね。クライアント企業から、あえて自社と異なる他業界、つまりつながりの薄い業界の事例やデータを求められることが実際によくあり、そこに企業の成長や変革に繋がるヒントが隠れているケースがありますから。

テックが導く未来は明るいばかりではない

――第2部のテーマは「テクノロジーのグレートリセット、その先の未来」でした。量子、ニューロンなどの最新テクノロジーがつくる未来やAI時代の人間の役割が話されましたが、藤森さんが同時に語っていたのは、意外にも「危機感」でした。

藤森:今後5年で「技術革新」と「社会インフラ基盤革新」の両面での道筋をつけないと、日本が崩壊してしまう恐れがあるのではと懸念しています。

アメリカの調査会社IDCの予測によれば、2025年に世界中で消費されるデジタルデータの総量は約175ゼタバイト(=175兆ギガバイト)にも上ります*1。SNSやAIの登場により、世界ではこの10年で消費されるデータ量が指数関数的に急増していて、この先も爆発的な増加の一途を辿るのは間違いありません。

すると日本ではデータセンターの増設が続き、全国で電力需要が暴騰し、供給が追い付かなくなる可能性がある。なぜなら、スーパーコンピューターを5時間動かしただけで、一般家庭の約30年分の電力を消費する*2といわれているのですから。

量子やニューロンは、従来型コンピューターに比べて、圧倒的に省エネ処理できるので、将来はこれら3つのコンピューティングによる最適化が求められます。その一方で、先に述べたような受け皿となる基盤整備も必須といえるのです。

野村:電力消費の問題は、想像以上に深刻な話ですね。電力不足になれば、電気代の高騰が起き、最悪は人々の生命の危機を招きます。日本円の信用は下落し、円安がどんどん進むでしょう。こうした最悪の状況に陥る前に、我々は引き返せるのでしょうか……。

藤森:さまざまな措置が必要なのでしょうが、データ量増加による電力需要を抑えるための手段は議論されるべきだと思うのです。AI活用や通信使用に対し、課金制でコントロールするなどの金銭的な措置も含めてですね。

野村:同感です。テクノロジーの発展を楽観的に捉えるだけでなく、冷静な視点と両面で見据えないとならないのですね。

Podcast Studio Chronicle代表・野村高文
Podcast Studio Chronicle代表・野村高文

社会は地層。“堆積”のためのリベラルアーツを

――第3部のテーマは「リベラルアーツとグレートリセット」でした。野村さんはリベラルアーツを「自分と世界を相対化する技術である」と説明し、そして、日本のグレートリセットのきっかけについても話題が広がりました。

野村:黒船来航や戦後復興など史実を振り返ると、社会の大転換には「外圧」があったように思えます。外圧に対し、それに応じるようにして日本は変わってきたのではないかと。

今後、日本が何をきっかけにしてグレートリセットするのかはわかりませんが、これまでの文脈をすべて無視して外圧に応じ、イチから社会をつくり上げようとすると、何らかのエラーが起きてしまうと考えています。そうではなくて、極論に走らず、つまりグラデーションを見ながら最適解を選び続けることが大事だと思うのです。リベラルアーツは最適解を選ぶために、物事を相対化して理解するための「補助線」のように機能すると考えています。

藤森:面白いですね。世界的にみても、日本はすごく緩やかなグラデーションで変化してきた国。緩やかに変化して、外圧で壊れて、またつくり上げて……そういう国民性なのでしょうね。

野村:民俗学者の柳田國男は、日本の社会や文化は時代ごとに積み重なっていて、重層性を持つと論じました。一気にすべてを変えてきたのではなく、何世代も積み重なってできた結果である、と。

藤森:なるほど。確かに日本には、文化や精神など根底に流れるものは何千年も脈々と残り続けています。企業でいえば、理念や存在意義が該当しますが、これらはそうそう変えるものではありません。

野村:「旧層」にも一定の理があるのですよね。テクノロジーの発展と電力供給の課題を同時に考える必要があるように、これまでの社会を冷静に見つめた上で「新しい層」を積み上げる、選択するという態度が求められていると思います。

藤森:まさに。そのような態度を語る上で、収録では、野村さんが「未来では、人と人がうまくやる能力が重要になる」とお話しされ、深く共感しました。結局、力は動物、知能はAI、生産性はロボットが勝る世の中において、人間はまず人間と関わり、うまくやれるかどうか。AI vs 人間のような思考はリセットが必要なのかもしれませんね。

野村:だからこそこの先は、生身の人間同士の関わりから生まれる人間臭さや偏り、しがらみといったものが、より価値を持つのだと思うのです。それを長尺のなかで、届けていく。

藤森:日本の「新しい地層」を積み上げるためにも、グレートリセットを考えたいですね。その先にそうした価値が高まっている可能性はおおいにあるでしょうね。

*1 出典:IDC White Paper, sponsored by Seagate, Data Age 2025: The Digitization of the World from Edge to Core, November 2018.

*2 スーパーコンピューター「富岳」の最大消費電力約28.3MW(出典:TOP500. (2020). Supercomputer Fugaku, A64FX 48C 2.2GHz, Tofu interconnect D)に対し、一般家庭の年間平均消費電力量は約3,950kWh(出典:環境省「令和4年度家庭部門のCO2排出実態統計調査 資料編(確報値)」図1-72~1-75, p.41~42)。


日本IBMが手がけるポッドキャスト番組「誰かに話したくなる“グレートリセット”の話」は、9月8日からApple ポッドキャストなど主要なリスニングサービスで公開。

視聴は以下のURLから。

日本IBM Podcast「誰かに話したくなる“〇〇”の話」
https://www.ibm.com/thought-leadership/institute-business-value/jp-ja/specialinterests/ibv-podcast


ふじもり・けいた◎日本IBM コンサルティング事業本部 ハイブリッド・クラウド&データ事業担当 執行役員。米大学院にてファイナンス・マネジメント修士号取得後、パナソニック入社。2008年 日本IBM入社。2014年 通信・メディア・公益サービス事業部長。同年Apple社とのグローバル戦略提携を受け、日本のApple Alliance Leaderに着任。2015年モバイル事業部長 兼 デジタル・コンサルティング担当パートナー。さまざまな業界・業種にてテクノロジーを起点とした業務変革、ワークスタイル変革プロジェクトを実施。インタラクティブ・エクスペリエンス事業部、戦略コンサルティング&デザイン事業などを統括し、現職。

のむら・たかふみ◎Podcast Studio Chronicle代表 プロデューサー・編集者。東京大学文学部卒。PHP研究所、ボストン・コンサルティング・グループ、ニューズピックスを経て、2022年にPodcast Studio Chronicleを設立。制作した音声番組「a scope」「経営中毒」で、JAPAN PODCAST AWARD ベストナレッジ賞を2年連続受賞。その他の制作番組に「News Connect」「みんなのメンタールーム」など。TBS Podcast「東京ビジネスハブ」メインMC。著書に『視点という教養』(深井龍之介氏との共著)。2025年10月にPodcast制作に関する単著を出版予定。

Promoted by 日本IBM | text by Rie Suzuki | photographs by Yutaro Yamaguchi