海の中には、この地球上で最も奇妙でありながら美しい生命体がひっそりと生きている。海洋生物といえば、イルカやクマノミといった生物たちが話題になりがちだが、人知れず暮らす神秘の生き物はほかにもたくさんいて、その多くは隔絶された海域やずっと深い海底に生息している。
そうした知られざる不思議な魚類や無脊椎動物のなかには、奇想天外な姿をしていたり、習性がちょっと変わっていたりと、私たちが想像する海洋生物のイメージを超えたものもいる。海底を「歩く」魚やら、アンティークの羽ペンに似た無脊椎動物の個体群やら、進化は実に独創的だ。
今回注目するのは、ガラパゴスバットフィッシュ、ウィーディーシードラゴン、ウミエラの3種だ。それぞれの生き物について、環境への驚くべき適応方法や採食戦略、驚異的な繁殖方法、何億年も昔までさかのぼる進化系統などを紹介していこう。
1. 海底を歩くガラパゴスバットフィッシュ
ガラパゴスバットフィッシュ(学名:Ogcocephalus darwini)は、体長が最大で40cm。頑丈で平べったいその体は、なめし皮のようにつるっとした皮膚で覆われ、細くて小さいトゲがところどころにある。
最も有名な特徴はもちろん、光を放っているように見える鮮やかな赤い唇だ(英名は「レッドリップ・バットフィッシュ」)。この唇は、産卵時に種を識別する上で役割を果たしていると考えられている。
ガラパゴスバットフィッシュは、泳ぐというよりも、海底を「歩く」。四肢のように機能するよう特殊な変化を遂げた胸びれと腹びれ、尻びれを使って、砂や岩のあいだをカエルのように歩いて前進する。
ガラパゴスバットフィッシュは成長すると、背びれの一部が誘引突起(イリシウム)と呼ばれるトゲに変化する。また、ルアーのように動いて獲物をおびき寄せる疑餌状体(エスカ)がある。
肉食性で、小魚のほか、エビやカニなどの甲殻類、環形動物、軟体動物を食べる。えさを捕まえるときは、じっとして獲物を待ち伏せる。擬態と不意打ちが頼りだ。ルアーの役割を果たす背びれに獲物が近づくと、幅広くて伸び縮みする口ですばやく吸い込み、一瞬のうちに捕える。
生息地はごく限られており、ガラパゴス諸島周辺やペルー沖ならびにエクアドル沖の、水深3mから120メートルの浅い海の底に分布している。海底の砂地や岩礁の端を好み、周辺になじむよう体の色合いを変える。
進化に関する研究で判明したところによると、ガラパゴスバットフィッシュをはじめとするバットフィッシュは、アンコウ目(学名:Lophiiformes)という、400を超える種からなる多様な系統群に属している。バットフィッシュ(アカグツ科)はこの系統内で、およそ5000万年前から6500万年前に分岐して海底での暮らしに適応し、熱帯地域と亜熱帯地域の沿岸の浅瀬や深い海に生息するようになった。現在は、75種以上がバットフィッシュとして確認されている。



