米国防総省は7月、レアアース(希土類)を採掘するMPマテリアルズの新規発行株4億ドル(約588億円)相当を購入し、さらに新株予約権(ワラント)を取得するという連邦機関としては異例の動きを見せた。この取引の一環として、国防総省は同社と10年間にわたるレアアース磁石の購入契約を結び、将来の兵器に不可欠な供給を確保した。
米連邦政府が動いたのは、MPマテリアルズが米国内で唯一のレアアース鉱山を所有しているからだ。同社はカリフォルニア州モハベ砂漠のマウンテンパス鉱山で、ネオジムやプラセオジムといった希土類元素を採掘・精製・分離している。これらの元素は、電気自動車(EV)やドローン、防衛システム、ロボット工学、風力タービンなどの先端技術に使われる磁石に不可欠だ。
MPマテリアルズの株価は、国防総省の発表以降に150%上昇し、同社の創業者でCEOのジェームズ・リティンスキーをビリオネアに押し上げた。現在47歳のラスベガス在住の彼の資産は、推定12億ドル(約1760億円)に達しているが、その内訳をフォーブスは、MPマテリアルズの持ち株8%(8月8日の終値で約10億ドル、日本円で約1470億円)に加えて、2億ドル(約294億円)超の現金と外部からの投資によるものとしている。
自身の資産についての問い合わせに応じなかったリティンスキーは、典型的な鉱業分野の富豪ではない。イェール大学で経済学を学び、ノースウェスタン大学で法務博士(JD)と経営学修士(MBA)を取得した彼は、投資大手フォートレス・グループに勤務した後の2006年に、自身のヘッジファンドであるJHLキャピタルを設立した。
同社は2014年、マウンテンパス鉱山の前の所有者のモリコープ・ミネラルズが発行した2050万ドル(約30億1400万円)相当のディストレスト債(経営破綻に直面した企業が発行した社債や債券)を取得した。そして3年後、モリコープの破産手続きの中でその債券を、冠水して操業停止状態だった鉱山の完全な所有権に転換した。そして、中国の出資者から5000万ドル(約73億5000万円)の資金を得て、18カ月に及ぶ復旧作業を指揮した後、新たに「MPマテリアルズ」と名付けられた同社は、2018年に採掘を再開させた。
リティンスキーは2020年に特別買収目的会社(SPAC)を通じて同社を上場させ、その生産量は操業開始以来で3倍以上に増加した。
米中間の対立からの恩恵
トランプ政権の関税政策と通商戦争が世界のサプライチェーンを混乱させ、米国の消費者物価を押し上げる中で、MPマテリアルズは、特に米中間で激化する対立から恩恵を受けるポジションに立っている。この背景には、中国が世界のレアアース取引を支配しており、その90%を精錬し、高強度磁石の95%を生産していることが挙げられる。米国が毎年輸入する7000トン近くのレアアースの大半は、中国からのものだ。
中国は、米国が自国のレアアース磁石に依存している状況を、トランプ政権との交渉における主要な切り札として利用してきた。4月にトランプが「解放の日」と呼ぶ関税の引き上げを発表した後、中国はレアアース磁石を輸出する外国企業に対し、輸出ライセンスの取得を義務づけ始め、その結果、外国企業は困難に直面した。



