北米

2025.09.01 12:00

トランプの貿易戦争、中国企業が出資の「米レアアース鉱山所有者」をビリオネアに押し上げる

MPマテリアルズの創業者でCEOのジェームズ・リティンスキー(Photo by Tasos Katopodis/Getty Images for 137 Ventures/Founders Fund/Jacob Helberg )

中国から米国へのレアアース磁石の輸出は、4月に前年比で59%減少し、5月には実に93%減少したとウォール・ストリート・ジャーナル(WSJ)は報じていた。しかし、この締め付けはMPマテリアルズにとって、国内需要の急増を引き起こした。「これほどの切迫感は見たことがない」とリティンスキーは4月にフォーブスに語っていた。

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皮肉なことにリティンスキーは、トランプ政権が通商戦争を仕掛ける前に、中国の支援を受けてMPマテリアルズの事業を立ち上げ、維持していた。中国政府が一部を出資する成都拠点のレアアース大手「盛和資源(Shenghe Resources)」は、2017年にJHLキャピタルが鉱山取得に入札した際、MPマテリアルズが将来生産するレアアース精鉱5000万ドル分(約73億5000万円)を前払いで購入し、資金面で支援した。

その資金は鉱山の復旧作業や新たな設備投資に充てられ、その見返りとして盛和資源は同社株式の8.4%を取得し、現在も保有している(同社はMPマテリアルズの事業には関与しておらず、取締役会の議席も持っていない)。

盛和資源は同社最大の顧客でもあり、昨年の2億400万ドル(約300億円)の売上高の80%を占めていた。しかし状況は急速に変わりつつある。「解放の日」の関税と中国の報復関税の後、MPマテリアルズは製品を中国へ出荷するのをやめ、他の顧客に注力すると発表した。

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中国依存からの脱却

中国への依存から脱却するために、MPマテリアルズは垂直統合をさらに進める必要がある。同社のマウンテンパス製錬所は現在、近隣の鉱山から採掘された鉱石の約半分を処理しているが、磁石に使われる重要なネオジム・プラセオジム金属の製錬能力の拡充に、まだ取り組んでいる段階だ(この取り組みについては、米国政府による4億ドル、日本円で約588億円の出資が後押しとなる見込みだ)。

さらに川下の工程として、MPマテリアルズはテキサス州フォートワースに磁石製造施設を建設し、すでに生産に着手しており、年内に本格的な商業生産を始める予定だ。また、国防総省との契約に合わせて、同社は10億ドル(約1470億円)の銀行融資を活用し、米国内の未公表の場所に2つ目の磁石製造施設を建設すると発表した。

これらの取り組みは多額の費用を要するが、MPマテリアルズにとってさらに大きな負担となっているのは、この数年間でレアアース価格が急落したことで、同社の収益は大きな打撃を被っている。同社は、2022年に過去最高の2億9000万ドル(約426億円)の利益を計上した後、2023年の利益は2400万ドル(約35億3000万円)にとどまり、昨年は6500万ドル(約95億6000万円)の赤字に転落した。

しかしそれでも同社は、バランスシート上に7億5000万ドル(約1100億円)の現金および現金同等物を抱え、ゼネラルモーターズ(GM)のような米国の顧客を拡大し、さらに激化する通商戦争の中での米政府の支援も得て、引き続き有利な立場にある。MPマテリアルズの株価は現在、73ドル超という過去最高水準にある中で、アナリスト11人のうち7人が「買い」、残りの4人が「ホールド」の評価を下している。

リティンスキーは、鉱業や地質学分野で正式な訓練を受けた経歴を持たないが、優れた投資を見極める目は確かだ。彼は、2050万ドル(約30億1400万円)の不良債権への投資を、米国にとって戦略的に重要な時価総額130億ドル(約1兆9100億円)の企業へと変貌させることに成功した。彼は昨年フォーブスに対してこう語っていた。「市場のサイクルの底で、代替コストを下回る価格で世界水準の資産を買えたなら、幸運は自然と巡ってくる」

forbes.com 原文

編集=上田裕資

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