生理のたびに、起き上がることすら困難なほどの痛みやその他の症状に悩む女性は多い。毎月、学校を休み寝込む娘の姿に胸を傷ませる保護者も少なくないだろう。
低用量ピルは海外では身近な対策法で、「OTC(Over The Counter、オーバー・ザ・カウンター)」として普及しているものの、日本ではまだまだ普及していない。これをうまく使う方法はあるのか、また新しい医療器具「ミレーナ」とは━━。
以下は、子宮頸がんワクチンわが娘には? 副反応は? 医師に聞いた などの人気記事もあり、Yahoo!、アマゾン、サイボウズなどIT企業を中心に、産業医として働く人々の健康管理をしてきた内田さやか医師による寄稿である。
「正常な」生理とは?
生理のときに鎮痛薬が手放せない、起き上がれないほど痛い、しかし生理なのだから我慢するしかないだろう……。そんな風に思っている読者や読者のご家族も多いのではないでしょうか。しかし、これらは「正常ではない生理」や「病気のサイン」の可能性があります。治療によって痛みのコントロールができること、さらには、背後に隠れた病気を見つけるきっかけにもなる生理痛について、いま一度理解を深めていただく機会になれば幸いです。
生理周期は25~38日、経血量は多いときでも2時間はナプキンから溢れない程度、持続日数は3~7日、生理痛は軽い痛み。ご自身の生理は、この範疇にあるでしょうか。鎮痛薬が効かないほどの痛み、起き上がれないほど痛みは、チェックすべきサインです。つまり、「病的な症状」と見なされる生理痛があるのです。
生理痛の正体を知る
生理痛の正体は、不要になった子宮内膜を体外に排出するための「子宮収縮」です。これは必要な生理現象なのですが、子宮が収縮する際に分泌されるプロスタグランジンという物質が原因で痛みが生じてしまいます。この物質が過剰に分泌されると子宮の収縮が強くなり、強い痛みが発生することになります。
生理痛が強く、日常生活に支障をきたす場合に「月経困難症」と診断されることがあります。この月経困難症には2種類あり、機能性月経困難症と器質性月経困難症と言います。前者は、背後に病気があるわけではないがひどい生理痛に悩まれているケース。後者は、背後に病気が隠れており、その結果として生理痛がひどくなっているケース。背後にある病気としては、子宮内膜症、子宮腺筋症、子宮筋腫などがあります。
この中でも、子宮内膜症は、月経困難症で悩む若年女性に多く、注目したい病気です。子宮内膜症は、子宮以外の臓器(卵巣・腹膜など)に子宮内膜ができる病気で、生理のたびにその子宮内膜が増殖・剥離を繰り返すことで炎症や癒着を引き起こします。これらの病気は、生理痛だけでなく、過多月経や不正出血などの症状を伴うこともあります。
なお、女性のQOL(Quality of Life:生活の質)を低下させる3大疾患は「子宮内膜症・乳がん・子宮頸がん」と言われています。これらによる経済損失6.37兆円、うち生産性損失4.95兆円と試算されていますので、社会の課題、社会で支える必要がある課題と捉えることもできるのではないでしょうか。
低用量ピルのメリット・デメリット
月経困難症の治療は、症状や原因によって異なりますが、背後に病気のない機能性月経困難症の場合は、鎮痛薬、低用量ピル、漢方薬などが用いられます。これらうちどれを使っていくかは、産婦人科医とよく相談することがお勧めです。
日本での普及がまだまだ低迷中の低用量ピルですが、近年の国内での服用率は、年々上昇しているようです。市場データによる推定服用率の試算(出典:株式会社ネクイノ、PILL FACTBOOK 2024)では、2018年が3.2%、その後も上昇をたどり、2022年には6.1%となり、普及が進んでいることがわかります。
メリットとしては、生理痛が軽くなる・生理周期が安定する・子宮内膜症が治療できる・子宮体がんや卵巣がんの予防になる・女性主導で避妊ができる・ニキビになりにくくなるなど、たくさんの点が挙げられます。デメリットである血栓症のリスク・子宮頸がんのリスクに関しては、採血での事前チェックやきちんと定期内服すること、子宮頸がんワクチン(HPVワクチン)での予防と検診をすることによって対策が可能です。
さらに、新たな治療法として、鎮痛剤や低用量ピル以外に「子宮内に挿入するタイプの医療器具」という選択肢もあります。日本では一つしか製品がなく、「ミレーナ」という名前です。名前だけは聞いたことがある方もおられるかもしれませんが、初耳の方も多いかと思います。特徴としては、過多月経、月経困難症への治療効果があり、保険適用となっています。一度挿入すれば最長5年間使用可能で、低用量ピルと比較して飲み忘れる心配がありません。また、血栓症のリスクも低いとされています。高い避妊効果もあり、最長5年間持続しますが、性感染症の予防効果はないためコンドームの併用は必要です。世界で約130カ国の女性が使用するほど国際的には普及しています。
他方、器質性月経困難症の場合は、原因となっている病気の治療が必要になります。そのため、現代ではオンライン診療の普及により対面診察なしに低用量ピルの処方を受けることも可能ではありますが、注意が必要です。背後に病気がないことが確認できているケースや、継続処方のケースでの利用はとても便利で有益かと思いますが、背景にあり得る病気のチェックが済んでいないケースや、初診のケースでは、「器質性月経困難症」のスクリーニングのためにも対面診察を受けることを強くお勧めしたいです。
内田さやか◎ビジョンデザインルーム代表取締役社長/SAHANA Retreat Spa & Clinic 院長/産業医・労働衛生コンサルタント・心療内科医。IT企業を中心とした複数企業での産業医活動やメンタルヘルスケアの啓蒙活動に尽力している。2019年に働く世代が心身のコンディションを整える機会となるよう、メンタルケアとボディスパを提供するSAHANA Retreat Spa & Clinicを表参道に開院。



