ドナルド・トランプ米大統領は、60万人の中国人留学生に米国の大学で学ぶことを許可すると表明した。これまで中国人留学生に対するビザ(査証)発給要件を厳格化するとしていた同大統領は、方針を大転換したことになる。
米AP通信によると、トランプ大統領は首都ワシントンで韓国の李在明大統領と会談した際、「60万人」の中国人留学生を受け入れると発言した。だが、60万人という数字は、2023~24年に米国に留学した中国人留学生の2倍以上の規模だ。
トランプ大統領は翌日の閣議でもこの発言を繰り返し、中国人留学生が米国の大学の財政を支えていると述べた。その上で、「私は(中国の)習近平国家主席に、同国の留学生をわが国に受け入れることを光栄に思うと伝えた」と語った。
5月に国務省が発表した方針を大転換
これほど多くの中国人留学生に米国の大学への入学を許可するという大統領の姿勢は、これまでの政権の立場からの大きな転換となる。
マルコ・ルビオ米国務長官は5月、「トランプ大統領の指揮の下、国務省は国土安全保障省と協力し、中国共産党とつながりのある学生や機密性の高い学術分野に携わる学生を含む中国人留学生のビザを積極的に取り消す」と発表していた。さらに、中国と香港からのすべてのビザ申請者に対する審査を厳格化するため、基準を見直すとしていた。
トランプ大統領の数字は実際の中国人留学生数の2倍超
トランプ大統領が挙げた60万人という数字は、米国際教育研究所(IIE)が最近確認した中国人留学生数の2倍以上に当たる。IIEの統計によると、2023~24年に米国に留学した中国人は27万7398人で、新型コロナウイルス流行前の2019~20年に最大を記録した37万2532人を大幅に下回っていた。近年、米中関係の悪化や中国の若年人口の減少、トランプ大統領の最初の任期中に課された規制の影響で、中国人留学生数は減少傾向にある。
トランプ政権のビザ政策は先行きが不透明なことから、中国人学生が米国以外の留学先を選択する事例も増えている。例えば、香港の大学で学ぶ地元出身者以外の学生の75%は中国本土の出身だ。今年は前年に比べ、中国本土からの学生が48%増加した。
さらに、英語圏の国と比べて学費がはるかに安い日本では、中国人が留学生全体の40%弱を占めている。日本に留学する中国人大学院生の多くは、学位を取得するのに十分な日本語能力を備えている。
留学生が減少すれば米国の経済や雇用に打撃も
米国際教育者協会(NAFSA)は、学生のソーシャルメディア(SNS)アカウントに対する監視強化やビザ制度の変更などによる外国人留学生の大幅な減少により、米国は今秋、最大で70億ドル(約1兆円)の損失を被る可能性があると示唆した。
米国の国土安全保障省と国務省のデータによると、今年新たに米国で学ぶ外国人留学生は30~40%減少しており、留学生全体では15%程度減るものとみられている。NAFSAは、留学生の減少によって米国内の6万人以上の雇用が失われる恐れがあると指摘した。同協会のデータによると、外国人留学生は2023~24年に米経済に438億ドル(約6兆4000億円)をもたらし、37万8000人以上の雇用を支えた。
ハワード・ラトニック米商務長官はインタビューの中でトランプ大統領の今回の発言を擁護し、外国人留学生は米国の高等教育に大きく貢献しており、留学生がもたらす資金がなければ米国の大学の15%が閉鎖される可能性があると指摘した。



