その巧みな言語センスや表現力で、20代のころから多くの観客を魅了してきた加納愛子。ジャンルを超えた仲間たちと実験を続ける彼女に、最近気になっている“新世代”を聞いた。
※本記事は2025年8月25日発売のForbes JAPAN10月号内のコーナー企画「各界の開拓者15人が選ぶ 今気になる、偏愛する新世代3人」からの一部転載です。販売中の本誌と合わせてお楽しみください。
もはや「芸人」という肩書では収まらない。単独ライブを打てば全国13公演で6500人を動員(2024年「縦」)する人気コンビ・Aマッソの頭脳。加納愛子は芸人として第一線を走りながらも、常に「お笑い」の枠にとらわれずに“実験”を繰り返してきた。
例えば22年にAマッソがラッパーのKID FRESINOと3都市で行ったライブツアー「QO」は、お笑いと音楽の双方のファンが集い話題に。23年にはテレビ東京プロデューサーの大森時生と、ホラーとお笑いをかけ合わせた公演「滑稽」を企画し、その斬新さから大きな反響があった。個人活動では、25年6~7月に東京と大阪で単独ライブ「H15」を終えたばかり。演劇集団「南極」とともに制作した本作では、コントに演劇のエッセンスが入ったまったく新しいエンタメを提示した。AR技術を駆使した演出も取り入れ、観客は盛大な“実験”に引き込まれた。
文筆家としてもその才能を発揮する加納は、ジャンルの境界を自由に行き来し新しい時代を切り開くクリエイターだ。そんな固定観念を揺さぶる彼女の目に映る、「次世代のつくり手たち」とは。
「H15」はもともと、単独ライブとして自分ひとりだけでやる想定もあったんです。でも、その選択肢は早々に消えました。ちょうど劇団「南極」の主宰・こんにち博士から「いつか仕事させてください」って連絡をもらって。「いつか」なんて言うてたらこっちも年をとるんで、「ほんなら、今度一緒にやろう」と。仲間集めが自分の強みなんやなってようやく自覚できてきたんです。KID FRESINOさんとの「QO」も、大森(時生)さんとの「滑稽」も、企画の根本は一緒。自分の芸をひとりで突き詰めるより、誰かと何か新しいものをつくるほうが好きです。
「一緒に何かやりたいな」と思う人は、お互いにリスペクトがあるのは大前提のうえで、“お笑いってこう”“演劇ってこう”みたいな固定観念がない柔軟な人。そうやってさまざまなジャンルへの門戸が開かれている一方で、何かひとつのことを偏愛する側面ももっている人には特に惹かれます。
今回の「今気になる、偏愛する3人」(梨、上下する、木下朋朗)で挙げたのも、そういう人。「滑稽」でご一緒した怪談作家の梨さんは、「バズりそうだから」とかじゃなくて、本当にホラーコンテンツを偏愛しているのが伝わってくるんです。そういう人って、時代とか関係なくずっと同じことをやり続けられる。私にはない強さなので素直に尊敬します。そんな子たちが「これからの時代をつくる人」なのかも。
ほかにも気になるのが、大学生ピン芸人の上下する。彼の映像ネタがめちゃくちゃ面白くて。Aマッソも映像ネタをやるけど、彼はもっと映像の可能性を探っていく才能があると思う。それから「H15」でARの実装をお願いした木下朋朗さんもすごい。3DCGを使って映像とかキャラクターをつくってるビジュアルアーティストで、これからさらに面白いことをやってくれるはず。この3人はみんな、自分で自分の次の作品にワクワクしてる気がします。確固たる軸がありつつも、自分自身に期待している。その感じが受け手にも伝わって、一緒にワクワクさせてくれる。それは表現者の醍醐味ですよね。



