正社員と大学院の両立で身につけた時間術
入社の半年後には正社員に登用してもらったのですが、それからが大変でした。派遣社員のときは、大学院に通う時間を正当化できたのですが、正社員になったらパフォーマンスを出さなければいつでもクビになるからです。でも、だからこそタイムマネジメントがすごく得意になったと思います。
僕はエクセル作業も速かったし、プログラミングを覚えて作業の自動化をしていたので、他の同僚よりも多くの仕事をこなしてる自信がありました。だけど、どんなにたくさん仕事をしても、夕方に暇そうにしていると仕事が追加で降ってくるんですよね。なので、もう時効だと思うのですが、昼休みの時間を長くとり、その間に、大学院の勉強、昼寝、もしくは運動をしていました。
そして、大学院入学から1年半経ったタイミングで、「Living in Peace」というNPO法人を立ち上げました。日本初のマイクロファイナンス・ファンドを企画したのですが、これもタイムマネジメントを身につけていたからこそ両立できたのだと思います。
今も会社経営と育児をしながら、非営利組織を立ち上げたり、本を書いたり、ブラジリアン柔術をやったり、依頼を受けて企業のロゴデザインや、個人のポートレート撮影をやったりと、同時にさまざまなことをこなしていますが、それができるのもモルガン・スタンレーキャピタル時代の経験が生きているなと思います。
自意識から解放された、208kmのウルトラマラソン
そして3つ目のターニングポイントは、29歳のときに「佐渡島一周エコ・ジャーニーウルトラ遠足」に参加したことです。新潟県佐渡島の沿岸、約208kmを2日間で完走するウルトラマラソンでした。
これは20代で一番重要な経験になりました。80キロを走り終えたところで足を引きずって歩くのもやっと、という状態だったのですが、この48時間で僕の人間性はだいぶ変わったと思います。言葉で正確に伝えるのは難しいですが、背負っていた荷物がなくなるような感覚でした。自意識というものが、走るなかで薄れていったんです。
10代や20代は、人から自分がどう見られるかを気にしてしまう傾向にありますよね。特に今はソーシャルメディアで、「いいね」がどれくらいつくか、どんなコメントが来ているかに意識が向いてしまう。だけど、人間はこれ以上ないほどしんどいとき、自意識がなくなります。
今、全力で逃げなければ命が危ないという状況下で、「自分の逃げてる姿が美しいかどうか」なんて考えは全部吹っ飛ぶはずです。そういった経験を、このウルトラマラソンでしたのです。その経験は、33歳で五常・アンド・カンパニーを創業してからも生きています。
起業家は、自己顕示欲が強い人が多いと思います。もっと事業を大きくして評価されたいとか、他の会社が羨ましいとか。もちろん僕にも「世界をこうしたい」という願望はありますが、他人軸での評価は気にしません。
「どう見られるか」を意識すると、そのぶん「何をするべきか」を考えにくくなってしまう。その結果、パフォーマンスは下がってしまうんですよね。


