あらゆる職業を更新せよ!──既成の概念をぶち破り、従来の職業意識を変えることが、未来の社会を創造する。「道を究めるプロフェッショナル」たちは自らの仕事観を、いつ、なぜ、どのように変えようとするのか。『転職の思考法』などのベストセラーで「働く人への応援ソング」を執筆し続けている作家、北野唯我がナビゲートする(隔月掲載予定)。
北野唯我(以下、北野):ヘッドハンターという「人を見る目のプロ」のキャリアがどう生まれたのか。今につながる分岐点を2つ選ぶとしたら何ですか?
小野壮彦(以下、小野):自分が「自信をもった経験」と「自信を失った経験」です。愛知県の片田舎で育った外国かぶれの若者で、小さい頃から「とにかく早くここを出たい」と思っていました。大学を1年間休学してカナダに留学したのですが、そこで自分は海外で戦えると自信をもてたんです。異文化コミュニケーションが得意だったんですね。
北野:日本にいたときと何が変わったんですか。
小野:同質性という見えない檻から解き放たれたような感覚でした。重力圏から脱出できたというか。端的に言うと、みんな違って僕も違っていいという意識ですね。

北野:反対に、自信を失った経験は?
小野:1回目に起業して、辛うじてエグジットしましたが、実質は失敗でした。その後、雇われのプロ経営者だったらいけるかと家電のスタートアップへ役員として入ったのですが、それもうまくいかなかった。経営者として向いていなかったんです。自分を分析すると、ポテンシャルの好奇心と洞察力はそれなりに高いです。でも、勝つとかやり続けるといった胆力のエネルギーが弱い。例えば数学は得意ですけれど、商売の数字に執着が湧かないんです。
北野:これまで一緒に働いてきた経営者は、数字に対してコミットメントは強かったですか。
小野:目標設定が得意ですから、みんなこだわりますね。やっぱり大きな単位のお金にワクワクしていますし、収益感覚なども鋭いです。
北野:そういう人と自分は違った。
小野:藤田(晋)さんや堀江(貴文)さん、自分の同世代たちが日本的にはトップクラスの起業家になっていて、なぜ俺はなれなかったのだろうと。とにかく悔しかったです。振り返ると、30代の半ばぐらいまで他人と比較していましたね。本当の意味で、自分に自信がなかったのでしょう。
そこで、経営者としては突き抜けられないかもしれないけど、経営者を支える仕事はできるかなと、世界的なエグゼクティブサーチファームに入ったんですよ。人だったら飽きなそうですし、たぶん向いているという感覚をもてたので。グローバルヘッドハンターは世界を股にかけて機密情報を扱う仕事ですから、ワクワクしました。別に人が好きだからといった軽い感覚でヘッドハンターになったわけではないですし、そういうものでもありません。世間のイメージとはかなり違う仕事です。



