ひとりに30回も面接するヘッドハンター、その合理性はどこにあるのか
私たちはその日、小野壮彦氏が面談で使うことも多い六本木のカフェを訪れた。グローバルのエグゼクティブヘッドハンターであり元起業家。直近では採用に関する著書が立て続けにベストセラーになっている。人を見抜き、見立てるプロだ。
さて、そんなプロになるための要素を3つに絞るなら何になるのだろうか。小野氏は「インサイト、インパクト、センサー」だと答えた。
まずインサイト。「連想ゲーム的な頭の使い方が求められます。『こういう仕事していたらこうだろうな、あの人と似ているということはこうだろうな』と与えられたファクトをもとに、コンセプトとしてつなげていく能力です」。要は、論理だけでなく、構造化された直感も使うのだ。
ふたつ目はインパクト。「お客様のほとんどは、兆円企業のエグゼクティブです。限られた時間やチャンスのなかで、自分を覚えてもらう必要がある」。その場で印象を残し、信頼を獲得しなければ、次はない。つまり、ファーストタッチでのインパクトが不可欠だ。
最後はセンサー。「できるだけ多くの領域で一流と呼ばれるモノや人、空間を体験することでセンサーを磨く。地道な積み重ねですが、ヘッドハンターとしての直感の鋭さに直結します」。
彼が以前パートナーを務めたエゴンゼンダーでは、エグゼクティブの面接を30回近く行うという。30回……。回数の多さでいうと、外資系投資銀行の採用面接も有名であるが、それに勝るとも劣らない数字である。
では、通常の企業では考えられないほど採用に時間とコストをかけるのはなぜか。その合理性はどこにあるのか。共通点は、ひとり当たりの粗利が桁違いに高いこと。実はグローバルのヘッドハンターは、プロフェッショナルファームのなかでも投資銀行に次ぐレベルで社員当たりの利益が高いという。まさに「選ばれた人のみ」が開始できる職業だろう。
私はこの話を聞いて、素朴な疑問が湧いた。小野さんでも人を見誤ることはあるのか。彼は言った。「ありますよ」と。いわく、人を見抜く部分でヘッドハンターの精度はかなり高いが、見立てることは100%ではないという。見立てるのは未来だからだ。
未来には正解がない。だからこそ、ヘッドハンターとは未来の仮説をつくり、人の可能性に投資する職業なのだ。目の前の“今”にすら答えがない時代。そんな時代において、人を見立てる力こそが、次の社会をかたちづくる最も必要な能力かもしれない。

北野唯我◎1987年、兵庫県生まれ。作家、ワンキャリア取締役CSO。神戸大学経営学部卒業。博報堂へ入社し、経営企画局・経理財務局で勤務。ボストンコンサルティンググループを経て2016年、ワンキャリアに参画。子会社の代表取締役、社外IT企業の戦略顧問などを兼務し、20年1月から現職。著書『転職の思考法』『天才を殺す凡人』『仕事の教科書』ほか。近著は『採用の問題解決』。


