北野:今後、「ヘッドハンター業務」と「人を見極める力」の2点で、AIはどう影響すると思いますか。
小野:候補者を企業へ紹介するときに用意する経歴やスキルなどの資料は一瞬で作成できるし、レジュメの要約などもすぐにやってくれます。まもなく日程調整などのエージェントも登場してくるはずです。端的に言えば、人に会う以外の業務が圧倒的に減るでしょう。
『人を選ぶ技術』にも書きましたが、ハイレイヤーの人のスキルや能力を「見抜く」力と、企業やポジションにどうフィットするかを「見立てる」力、また、優秀な人に胸襟を開いて話してもらう力などはAIには代替が難しいもので、かなり人的な依存度が高いですね。それに比べて、ミドル・ローレイヤーの転職希望者を企業と大量にマッチングしていくような仕事は、AIでも相当いける気がします。
人間の仕事として残るのは、本質的には「データになっていないものをデータ化すること」だと考えています。採用にはまだその領域が多い。多くの人は自分自身を理解していません。その人が気づいていないこと、言葉にできていないものを、いかにあぶり出すか、という部分に大きな価値があります。
北野:ポテンシャルやソース・オブ・エナジーみたいなところですね。
小野:そうですね。どの仕事でも言えることですが、人が介在する必要性が低いようなやり方をしていたら、AIの登場は脅威となるのだと思います。一方で、「そもそも転職意向がない人の意思を変える」とか「その人自身の深いところの洞察を得る」といった力は代替されづらい。こうしたハイタッチのヘッドハンティングは、人間と見分けがつかないロボットが登場する時代まで残る気がします。
北野:目の前に就職に悩む15歳ぐらいの人が「将来ヘッドハンターになりたい、小野さんみたいになりたいんです」と言ったら、どんなアドバイスをしますか。
小野:「一流のもの」にできるだけ多く触れてほしいと伝えるでしょうね。人だけではなく、文化芸術、食や住まい、商品やサービスなど、本物だけがもつ圧倒的な力を肌で感じてほしいです。また、正直に「めちゃくちゃ難しい仕事だよ」とも添えると思います。僕自身ができていたとも思えないし、まだ道半ばです。職業として見ちゃいけない、まさに道のようなものと言えるかもしれませんね。
小野壮彦◎1973年生まれ。グロービス・キャピタル・パートナーズのバリューアップ・チーム「GCPX」リーダー。早稲田大学商学部卒業後、アクセンチュア入社。99年プロトレード創業、翌年楽天が買収。Jリーグ・ヴィッセル神戸の取締役事業本部長を経て、08年エグゼクティブサーチファームのエゴンゼンダー入社。16年同社パートナー。17年ZOZO本部長。20年より現職で組織グロースの支援、起業家メンタリングなどにあたりつつ、自身のスポーツマネジメント会社を経営中。SDAボッコーニ経営大学院MBA。


