面談が続くと脳がヘトヘトに
北野:こうして「人を見る目」を高められてきたわけですね。その力は経営者やCHRO、あるいは占い師のような職業にも求められますが、ヘッドハンターが「ここは違う」というポイントはありますか?
小野:ヘッドハンターは、実は「奇妙な仲介者」だと思っています。仲介に徹していては仕事にならないんです。多くの人はヘッドハンターを「候補者と会社をつないで口説いているだけの存在」だと思っています。でも、本当のヘッドハンティングは違う。
北野:純粋な仲介業務だけならマッチングでいい。
小野:そう。候補者と会社に加えて、ヘッドハンター自身が3番目の重要な登場人物になるべきです。トップレベルのエグゼクティブになると、いきなり会って「転職しませんか」でパパッと決まることは少ないですから。直接的な転職支援とは別のところで、一緒に余暇を過ごしたり、ときには人生相談に乗ったりして、長い時間をかけて人間関係を築き上げていくんです。
候補者からもクライアント企業からも、まず自分というヘッドハンターを信用してもらい、僕になら相談したい、僕の意見を聞きたいと思ってもらえないとダメです。仲介者だけでもなく、アドバイザーでもあるという不思議な仕事です。
北野:特別な技術は求められますか?
小野:他人からは見えないかたちで必死にマルチロールをこなす必要があります。エモーションとロジックのパラレル処理というか。その人に気持ちを完全に寄せながら、幸せになる道を一緒に考えて、心に響く話し合いを進めます。それと同時に「A社よりB社に合いそう」「しかしB社の仕事をできる能力が本当にあるか」などと冷静にアセスメントもしているのです。ヘッドハンター・モードで人の会い方をすると、脳みそをフル回転させないといけないのでヘトヘトになり、面談が続いた後には甘いものを摂りたくなります。
北野:これから人口が減少する日本の採用では、何を捨て、何を取り入れるべきだと思いますか。
小野:中途採用のなかでも「労働力を補う採用」と「リーダーシップを補う採用」は、本来は野球とサッカーぐらい別の活動だと思っています。
北野:しかし現在は多くの企業が、新卒採用のプロトコルで中途採用をしているということですね。
小野:だからいまだに冒頭で「志望動機は何ですか」と聞いている。あとはスキルばかりを尋ねるとか。

本質をあぶり出す仕事は残る
北野:ところで、採用と育成は重要な対のピースだと思うんです。小野さんの専門ではないかもしれませんが、育成に関してはどう考えていますか。
小野:僕も育成はしますし、大事ですよ。でも、育成に夢を見すぎない。伸びるだろうなと思った人が伸びるので、そういう人を採るエントリーマネジメントに行き着くという気がします。あとは、その人の伸びしろがどんなところに、どのくらいあるのかをちゃんと読むことも大切です。
その人の資質を超えた過剰な期待をしないことも、お互いにとって大切だと思います。それによって、無駄にストレスを感じたり、落胆したりすることも減るように感じています。「あなたの可能性は無限大です」と言うのは無責任だし、嘘っぽい。僕が嫌いな言葉です。


