国際宇宙ステーションも老朽化し、新たな宇宙時代を迎えようとしている今も、地上では人々は蚊取り線香を焚き、家族総出で居間に侵入した1匹の蚊を追いかけ、パチンパチンと空しく手を叩いている。現代の科学技術をもってしても、蚊の1匹がどうにもならないのか、と絶望するのは早い。蚊に関する研究は着々と進んでいる。
花王ヒューマンヘルスケア(花王)と理化学研究所(理研)は蚊の行動に関する研究を続けているが、このほど、二酸化炭素が蚊の視覚と嗅覚に対する反応を高めている可能性があることを明らかにし、論文を発表した。
蚊は、人の呼気に含まれる二酸化炭素を察知すると飛行行動を活性化し、視覚と嗅覚を頼りに人に近づき、熱と水分を検知して肌にとまる。そのとき蚊の感覚は二酸化炭素によって増強され、行動も俊敏になるというのだ。まさに、人の息によって蚊はスーパーモスキートに変身して襲いかかってくるということだ。
花王と理研は、台に固定した蚊をLEDパネルで囲み、その行動を観察する蚊専用の仮想空間を開発した。この装置では、LEDパネルに縦の黒い帯を表示し左右に動かすと、その方向に飛ぼうとする蚊の動きを検知できる。つまり、黒いものを追いかける蚊の習性が確認できるわけだ。
蚊は、通常は一定の速度でしか黒い帯を追いかけない。帯の動きが速くなるとついていけなくなるのだが、二酸化炭素を嗅いだ蚊は、追いかけるモチベーションが高まり、普段より張り切って追いかけようとする。しかも、LEDパネルのコントラストを落として、暗闇での黒い帯の動きが見えにくい状態を再現しても、二酸化炭素を嗅いだ蚊は帯をしっかりと追いかける。

始終二酸化炭素を吐いている我々は、どんどん来てねと言わんばかりに蚊に活力を与えていたわけだ。息を止めるわけにもいかず、まったくお手上げ。だが、スーパーモスキートにも弱点があった。嗅覚が鋭くなるため、蚊よけとしてよく利用されるリナロールなどの蚊が嫌いな匂い成分に、普段よりも敏感になり、速攻で逃げ出すというのだ。
このように蚊の習性が少しずつわかるようになってきたことで、人類が月面基地を建設するころには、今よりずっと効果的な蚊よけ対策が発明されているかもしれない。



