「あの部下が自分から辞めてくれたら、本人と直接、例の気まずい会話をせずに済むのに」と思ったことはないだろうか。そう考えているのはあなただけではない。
リーダーはたいてい、物事を回避する術を身に付けている。実際、ありとあらゆる対立を避けるのが上手なあまり、専門家として人に指導できるくらいだ。
雇用市場が活気づいていた数年前であれば、「あの部下が辞めてくれますように」と祈っているだけで、願いが叶うことが多かった。たとえ叶わなくても、その部下を追い立てるために、ヘッドハンティングを仕事にしている友人に頼んで、本人に働きかけてもらい、ステップアップできそうな求人情報について検討させればよかった。
時は流れ、そうした日々はもはや遠い思い出となった。大離職時代から逆転して、現在は大残留時代となっている。つまり、仕事に大きな不満を抱いているとしても会社を辞めない従業員が多くなったのだ。
経済の先行きが不透明なせいで、従業員たちは現在の勤め先から動こうとしない。会社に忠実なわけではなく、従業員として満足しているわけでもなく、不安にかられているからだ。しかしこうした状況は、企業にとって潜在的なリスクとなっている。
「大残留時代」とは
米国では、現在の仕事が好きではない(あるいはひどく嫌っている)のに、辞めようとせずに働き続ける従業員の数が、記録的な数に達している。なぜなら、経済と雇用市場が不安定で、不安が膨らんでいるからだ。離職率は、2022年に記録的水準に達して「大離職時代」と呼ばれたが、今では、コロナ禍の前を下回っている。
数字で見てみよう
・調査会社Harris Poll(ハリス・ポール)が、求人サイト「Indeed(インディード)」の依頼で実施した最新調査では、「現在の仕事に不満はあるが、経済を巡る不安があって、離職を躊躇している」と回答した米国人労働者は40%だった
・McKinsey(マッキンゼー)の調査によると、主要経済国6カ国で働く従業員の40%は、「近いうちに仕事を辞めることを検討している」と回答した。ただし、本当に辞めるかどうかは誰にもわからない
・「Fortune(フォーチュン)」に先ごろ掲載された記事によると、労働者の50%が、「現在の会社にとどまっているのは、たとえ転職したとしても、新しい勤め先が人員削減を実施した場合には、自分が真っ先にその対象になるのが不安だからだ」と回答した
・インディードのエコノミストによると、採用ペースは、2013年以来の最低水準に落ち込んでいる(ただし、コロナ禍の初期を除く)
・高金利によって、企業が事業拡大や新規事業への着手を差し控えるようになり、その余波で採用が減少している



