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2025.09.01 12:30

真のイノベーションは、日常の見直しから始まる──きっかけをつかむ「4つの方法」

Shutterstock.com

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「イノベーション」という言葉を聞くと、私たちはすぐにAI(人工知能)や量子コンピューター、次世代ロボティクスといったものを思い浮かべる。これらが前途有望なフロンティアであることに疑問の余地はないし、そう考える根拠は十分にある。これらのテクノロジーはさまざまな業界を、そして私たちが世界を経験する方法を、劇的に変容させるだろう。けれども、こうしたきらびやかなハイテク分野に目を向けているだけでは、私たちは重大な盲点を抱えることになりかねない。

大勢の人々の暮らしを変える、真のイノベーションの出発点は往々にして、もっと地味な場所にある。メディアが競って報じるブレークスルーではなく、日常生活をじっくりと考え直すことから始まるのだ。

日常生活のなかに存在する最大の障害は、チャットボットと会話ができないことではない。それはむしろ、中身が漏れやすいコーヒーカップの蓋、こんがらがった充電ケーブル、組立家具の組み立てに苦戦する体験といったものだ。

こうした日常的な問題の解決にこそ、人間を中心とした真のイノベーションが物をいう。ムーンショット級の莫大な予算は必要ない。必要なのは、マインドセットを切り替え、日常を新たな視点で眺めることだ。

「日常のなかのイノベーション」の価値は見過ごされている

人間は習慣に従う生き物であり、日常生活のちょっとした不便については、ただ受け入れるように条件づけられている。こうした現象は、心理的固着と呼ばれる認知バイアスの一種だ。

こうしたバイアスは、それまでずっと使ってきたやり方でしか物を使えないように、私たちに制約を課している。フォークは食べるためのもの、スーツケースは物を入れて運ぶもの、といった具合だ。「これが劇的に便利になるとしたら?」と、立ち止まって考えることはめったにない。

イノベーションは、常に破壊的創造を伴うわけではない。むしろ往々にして、驚くほどシンプルなものだ。バーナード・サドウを例にとろう。数世紀にわたり、人々は重いスーツケースを抱えて運んできた。単純に、そういうものだったのだ。1970年、家族で休暇から戻る途中、サドウは2つの大型スーツケースを抱え、空港で四苦八苦していた。そんなとき、彼は空港職員が、大型バッグをキャスター付きのラックに載せ、やすやすと運ぶところを目撃した。この瞬間、サドウが思いついたのは、画期的な技術でもなんでもない。彼はただ、単純に2つのものを結びつけただけだ。

サドウは、スーツケースの底部に4つのキャスターを取り付け、引っ張るためのストラップを追加し、「ローリング・ラゲッジ」として特許申請した。これが旅行業界を一変させた。サドウは車輪を発明したわけでもないし、スーツケースを発明したわけでもない。彼は2つを組み合わせ、ありふれた悩みを解決したのだ。

同じように、キッチン用品メーカーOXOの創業者サム・ファーバーは、関節炎を患う妻が、定番のキッチン用品を扱うのに苦労していることに気づいた。そこで彼は、柔らかく人間工学に基づいたデザインのグリップを備えたキッチン用品セットを開発した。愛情と注意深い観察から生まれた、ちょっとした洞察は、いまや評価額10億ドル(約1470億円)を超える大企業へと成長した。始まりは、AIでもブロックチェーンでもなく、「もっと便利なピーラー」だったのだ。

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翻訳=的場知之/ガリレオ

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