2025年8月25日発売のForbes JAPAN10月号は「30 UNDER 30」特集。30歳未満の次世代をけん引する若い才能に光を当てるアワードで、米『Forbes』が11年より開催し、世界的に注力している企画だ。北米版のほか、欧州版、アジア版、アフリカ版など81カ国・地域を対象に開催し、世界規模へと成長している。『Forbes JAPAN』でも18年より開催し、7年間で総計300人を選出してきた。これまでの受賞者は、ロサンゼルス・ドジャースで活躍する大谷翔平、ボクシング世界4階級制覇王者の井上尚弥、世界的ピアニストの反田恭平、起業家の坪井俊輔(サグリ)など、世界を舞台に活躍するチェンジメーカーたちだ。気候変動、地政学的緊張、デジタル格差など世界的課題があるなかで、今年の受賞者たちも各々が「自分が思うより良い未来」を目指す30人だ。彼ら彼女らが想像し創造していく「新しい社会、新しい経済」から見えてくるものこそが日本の未来の希望になる。
「いまだにみんな絵が好きで、頼まれてもいないのに描く人がいる──」絵画の現状を冷静に俯瞰しながら、那須佐和子はなぜ絵を描き続けるのか。
原点は、シャルル・ドービニーの風景画にある。進路選択が迫る15歳の冬、国立新美術館で行われていた大人気のゴッホ展で、那須佐和子は人だかりのできる名作「アイリス」には目もくれず、誰も見ていない、ゴッホが影響を受けた作家として取り上げられていたドービニーの作品を見つめていた。
「古典的で素朴な風景画なのですが、近づくとバターのような絵の具のような塊が、離れてみると空の彼方まで広がるような感じがあって。絵がもたらす根本的な驚きに面白みを感じました」。那須が継続して丸い点のシリーズを描き続けるのも、展示空間を考える際に、“人混みの抜け穴”のような場所を意図的につくるのも、その体験に基づいている。
わかりやすいビジュアル表現が増えるアートシーンにおいて、那須は“骨太な才能”としてキュレーターやコレクターから期待される存在だ。
その作品は、風景画や人物画といった「使い古され、言い尽くされた」絵画表現であるが、那須は明確な意思をもってその題材を選んでいる。大学時代にフランスの哲学者ロラン・バルトの「前衛のなかの後衛」という言葉に出会い、「ある物語が終わった、でもそれを愛しているというスタンスもありなのか」と腑に落ちたという。絶対に追いつけない過去の芸術に憧れながら、あえて使い古された、誰もが好む形式を選ぶ。言い換えれば、絵のために絵を利用している。
画家としての喜びは、「白いキャンバスを前に夢想し、最初の筆を入れるとき」。それから長い時間をかけて汚していくのが辛いが、最初の一筆を入れた喜びを取り戻した時、作品が完成するのだという。
一方、描くだけでなく、自ら展示プランを考えるなど「空間を操作したい欲望がある」のが那須でもある。期間限定の展示と、終了後も散り散りに残っていく作品。その双方のバランスをとりながら、何度も原点であるドービニーに立ち戻りながら、驚くほど長い時間軸の目標を掲げる。「時を超えるような作品を一枚でも描けたら。それが望みです」。
なす・さわこ◎画家。1996年、東京都生まれ。2023年、東京藝術大学大学院美術研究科絵画専攻 小林正人研究室を修了。絵画の在りかをテーマに、風景画と人物画を中心に制作を行う。主な個展に、「Vestige」(NISO,ロンドン 24年)、「ライナスの布」(KENNAKAHASHI,東京 25年)など。
ジャケット 49500円/リブ ノブヒコ(ハルミショールームTel:03-6433-5395)、ドレス 77000円/ホウガ info@houga.jp




