日本のメンズファッションの発信基地として知られる「阪急メンズ東京」(東京・有楽町)が今秋、海外富裕層を中心としたインバウンド向けに初のキュレーション型ポップアップイベント「ジャパンスーベニア」を展開。パンデミックの影響から復調フェーズにある百貨店業界にとって、この施策に寄せられる期待とは?
高まるサービス輸出への期待
2024年にインバウンド層が日本国内で使った金額(サービス輸出)は約8.1兆円に達し、過去最高を記録した。これは日本のGDPのおよそ1.3%に相当し、自動車に次ぐ輸出産業として重要な経済基盤のひとつとなっている。円安により、日本での消費が相対的に割安になっている昨今、このサービス輸出の大きな柱のひとつとなっているのが、インバウンドによる購買だ。観光庁の『インバウンド消費動向調査』によると、昨夏(2024年7~9月期)の外国人観光客の旅行消費額は1兆9,480億円と推計されており、なかでも購買費は5,622億円と、28.9%をも占めていた。
「中国政府が一般観光客のビザ発給要件を大幅に緩和したのが2010年。2014年ごろには“爆買い”と呼ばれる訪日客ブームがありました。日本は“購買のデスティネーション”としてのニーズは依然としてあるものの、百貨店の立場からしますと、ラグジュアリーブランドの製品を買いに来る場としての差別化には限界があるのではと考えていました」
そう語るのは「阪急メンズ東京」(東京・有楽町)で販売企画を担当する大瀧成章。2011年に開業後、‟クリエイティブコンシャスな男たちの冒険基地”をストアコンセプトとして、ラグジュアリーブランドやストリートファッションの品揃えを強化した同店は、特に20〜30代のファッション感度の高い男性をファンとして獲得。東京のメンズファッションの発信地として注目を集めてきた。
「銀座・有楽町エリアという日本、そして東京を代表する観光エリアにある百貨店としてなにができるか──考えた末に行きついたのが“体験”という価値創造でした。商品に出会うまでのプロセス、また持ち帰るだけではなく、作り手に出会ったり、産地のことを知ったり、伝統工芸について知識を深めるなど、ここでしかできない “体験”をお求めいただけたら、と。お客様のトレンドとしても、ブランド商品をバイネームで購入するというより、日本のものづくりの歴史や伝統などへ興味をもったり、作り手に共感を寄せる方も増えてきています」
「ジャパンスーベニア」という新たな価値を創造
そこで、企画されたのが「ジャパンスーベニア」。日本の工芸やものづくりをテーマに、日本ならではの美意識や伝統技術が息づく作品・洋服・道具などの“スーベニア”を館のあちらこちらで多面的に展開するという、新たなポップアップイベントだ。「阪急メンズ東京」は約350ものファッションブランドが出店する国内最大のメンズファッションに特化した百貨店であるが、“スーベニア”とはお土産のことだろうか? 名づけ親でもある大瀧が語る。
「スーベニアは日本ではお土産と訳されがちですが、本来の仏語では”思い出”や”記念”というような意味ももっています。商品そのものだけではなく、その産地やものづくりの背景、作り手の理念に出会い、知ることを思い出にしていただけたらと、そんな想いから名付けました」
大瀧ら若手~中堅世代を中心としたチームが立ち上がり、日本文化の魅力を国内外に発信するアーティストや職人、ブランドをキュレーション。「Forbes JAPAN カルチャープレナー」とのコラボレーションにより、文化資産や地域資源を掘り起こし、新たなエコシステムをつくる文化起業家や、伝統文化を世界に広げるアーティストがセレクトされている。
「ジャパンスーベニア」主な出展アーティスト&ブランド
【MIZEN】
9月17日(水) 〜 10月14日(火) / 1F POP-UP SPACE B

エルメスなど一流メゾンで活躍したファッション・デザイナー寺西俊輔が、日本の伝統技術を次世代のラグジュアリーへ昇華するブランドとして2022年に創業。牛首紬や螺鈿織といった伝統的で希少な素材を「技術を引き立てるデザイン」というフィロソフィーにもとづいて現代的な洋服やネクタイなどのアクセサリーへ再構築。素材と職人の技術そのものをクリエイションの核としている「MIZEN」のコレクションは、まとうことで伝統工芸の職人とユーザーがつながることができる精神的なラグジュアリーを提示している。
【水玄京】
9月24日(水) 〜 10月7日(火) / 1F POP-UP SPACE A

日本全国の伝統工芸職人と連携し、工芸品のオンライン販売を行うメディア・コマースプラットフォーム。現在、118ジャンル、170以上の職人や法人をネットワークし、約2,700点の商品を取り扱っているが、今回の「ジャパンスーべニア」ではシルバー、金、鋼などの素材を使ったメタルアートに着目。東京の伝統工芸「東京銀器」、「京象嵌」のアクセサリーのほか、伝統技法「蝋型鋳造」によるフラワーベース、熟練の技と伝統を受け継ぐ包丁、日本一と呼び声高い刀匠による日本刀など幅広いラインナップを展開する。
【ふくべ鍛冶】
9月24日(水) 〜 10月7日(火) / 1F Main Base ※最終日は19時閉場

包丁や農具、漁具といった暮らしの道具を幅広く手がける“野鍛冶”工房として、石川県能登町で1908年に創業。馬車を使った行商で刃物や工具の修理・販売を続けてきたが、現在はオンラインや宅配包丁研ぎサービスにより、道具への想いと職人技を未来へつなぐ。主な商品に家庭用包丁はもちろん、能登マキリ(小刀)やサザエ開けなど地元の漁業・農業文化に根差した道具、また多機能アウトドアナイフ「TAFU」など。昔ながらの本鍛造による質実剛健な仕上がりと、手づくりならではの使いやすさが魅力。
【稲とアガベ】
9月24日(水) 〜 9月30日(火) / 7F Base7 ※最終日は16時閉場

日本酒の製造技術をベースとして、そこにフルーツやハーブなどを加えることで新しい味わいを目指した新ジャンルのお酒、クラフトサケの醸造所として秋田県男鹿市で2021年に創業。旧JR男鹿駅の駅舎を醸造所・店舗・レストランが併設された複合施設にリノベーション。クラフトサケを起点とした街づくりにも取り組み、酒粕を調味料にする食品加工所「SANABURI FACTORY」、一風堂監修レシピのラーメン店「おがや」、宿、スピリッツ蒸留所ほか数々の拠点を創出。酒文化を媒介に過疎の進む男鹿の活性化に取り組む。
「ジャパンスーベニア」から始まる新たな冒険
出展者とその作品、商品を眺めてみると、「ジャパンスーベニア」というインバウンドを意識した対外的な切り口でありながら、これが日本に暮らすものにとっても大いに魅力的なラインナップであることに気づく。日本の伝統や工芸作品が現代的な視線でキュレーションされ、世界が憧憬する文化資産へと高められたことは、逆に我々が足元のレガシーを再認識する機会ともなりそうだ。時は芸術の秋、‟クリエイティブコンシャスな男たちの冒険基地”である「阪急メンズ東京」を訪れることが、我々にとっても新たな冒険への第一歩となるだろう。
阪急メンズ東京「ジャパンスーベニア」
開催期間:2025年 9月24日(水)〜10月14日(火)
開催場所:阪急メンズ東京(東京都千代田区有楽町2-5-1)
詳細はこちら
※10月8日(水)~14日(火)まで開催を予定しておりました「奈良祐希 ポップアップイベント」は、諸般の事情により、開催を中止となりました。
阪急阪神百貨店による中止のお知らせは以下よりご確認ください。
https://web.hh-online.jp/hankyu-mens/contents/news/008430/



