独自の理論からトヨタ、ユニクロ、セブンイレブンの「強み」をいち早く言語化して時代を先読みした投資家・阿部修平(スパークス・アセット・マネジメント代表)。ここスパークスが手がけるファンドの銘柄から、来るべきパラダイムシフトをキャッチする。
藤吉雅春(Forbes JAPAN 編集長):「パラダイムシフト」は、今年の一大テーマだと思います。そこで今日は、出路さんが手掛けてらっしゃる「未来創生ファンド」と「宇宙フロンティアファンド」についてお話をうかがいたいんです。それらのファンドを通じてスパークスさんがどういう企業に投資されているのか。そこに来るべき「パラダイムシフト」のヒントがあるんじゃないか、と。
出路貴規(スパークス・アセット・マネジメント取締役 次世代成長投資本部長):ありがとうございます。先に「未来創生ファンド」についてお話すると、設立は2015年、(1号、2号、3号の3ファンドで)昨年末時点で158社、累計で1778億円の運用実績がございます。アンカー投資家(主要LP:リミテッド・パートナー)としてトヨタ自動車さまと三井住友銀行さまに入っていただき、私どもスパークスがジェネラルパートナーを務めるという形ですね。
阿部修平(スパークス・アセット・マネジメント代表):ちょうどその2015年って、世界中の投資家が「ロボティクス」とか「IoT」という言葉を口にし始めた頃だったんですね。で、僕なりに日本においてそうした概念を体現するプロダクトは何かな、と考えたときに、”自動運転の車”が思い浮かんだんです。そういう話をトヨタの豊田章男社長にしたら、最終的にこういうファンドを作って、そこに投資して預けることになったんです。
スパークス初のベンチャー投資
藤吉:トヨタ自動車がファンドに投資するのは異例ですよね。
阿部:少なくともスパークスとしては初めてです。さらにSMBCにも入ってもらえることになって、最強の投資家が入るファンドとしてスタートを切れた。
藤吉:スパークスとしてベンチャーへの投資は初めてだったのですか。
阿部:ええ。ただベンチャーだろうと大企業だろうと投資は投資なんで、僕としてはあまり特別には考えてなかったですね。これまでと同じやり方でやればいい、と。実際、今のところ、始まって10年で、投資成果は年率10%ぐらいですから、結果も出ています。今後、投資先の大型上場も控えているので、利回りはもっと高くなっていくと思います。
藤吉:最初の1号ファンドの投資先はどのような企業だったんでしょうか。
出路:大まかにいって(1)AIなどの知能化技術、(2)ロボティクス、(3)水素という3つの分野にわかれます。(1)の代表例がPKSHA Technologyさんですね。ここはAIアルゴリズムを基盤としたソフトウェアソリューションを提供する企業です。
藤吉:PKSHAが入っているんですね。社長は東大の松尾研出身の上野山(勝也)さん。私もお会いしました。
阿部:僕も上野山社長に会って、瞬間的にいいなと思いました。難しいことを分かりやすく説明することができる。そういう”優しさ”があったんですよね。
藤吉:上野山さんにお会いした時、強烈な印象があります。それは彼が「ちょっとこれ聞いてくださいよ」ってスマホを取り出されたんですね。何かなと思ったら、コールセンターに電話をかけてきたクレーマーが怒鳴っている音声でした。「これでみんな病んでしまう」と。今の社会の問題点って突き詰めるとコミュニケーションの問題が多くて、これをAIが解決するというお話をだったと記憶しています。その延長でクレジットカードの不正利用のチェックなど、従来は人海戦術による手作業を、すべてAIでチェックできるようにしたり。これは本当に「進化」だなと思いました。
阿部:やっていることはプラットフォーマーだよね。
藤吉:そうなんです。それにしてもAIの活用って今だと当たり前の話に聞こえますが、2015年時点でここに投資されているのは早いですね。他にもUberとか、Sansan(クラウド型名刺管理サービス)、タクシーGOとか、今、成功しているところばかりですね。ソラコム(IoT機器向けにセルラー通信やクラウド接続などの基盤サービスを提供する通信プラットフォーム企業)に2016年に投資しているのも早いですね。
出路:ソラコムの場合は“モノ”が売れてたんですよね。とくにSIMチップがAmazonで圧倒的に売れていて。
藤吉:えっ、Amazonで売ってたんですか?
出路:最初はそうなんです。それが例えば路線バスのIoT通信機能に組み込まれて、バスの現在位置や車内カメラの映像をリアルタイムで送受信したりするのに使われていた。社長の玉川憲さんも「こんな使われ方をするとは思っていませんでした」と驚いてました。ソラコムは投資の1年後にKDDIさんが買収されたので、株価2倍でエグジットしてます(注・ソラコムは2024年にスイングバイIPOを果たした)。
最強のアドバイザリーボード
藤吉:ディープテック領域の企業に投資される場合、途中で新技術が登場したり、競合が現れたり、長い時間軸の中では読みづらいところがあると思うんです。そのあたりは、どういうことに気をつけて見立てをされているんでしょうか。
出路:仰るとおりで、百発百中というのは難しいかな、と思っております。ただ当ファンドは当初からアドバイザリーボードを設けているんです。そこにLPのトヨタさんの方から各分野(AI、ロボット、水素)の専門家に入っていただいて、最先端技術の目利きをしていただいてます。また開催当初はSMBCの工藤禎子様(現副頭取)に入っていただいてビジネス面のチェックをお願いしたり、今はアカデミアの研究者にも入ってもらっています。
藤吉:東大の松尾豊教授(人工知能研究の第一人者)をはじめ、こちらも錚々たるメンバーですね。このアドバイザリーボードのメンバーで定期的に議論をするわけですか?
出路:そうですね。毎月定例ミーティングを開いてますし、我々が投資するときには必ず集まっていただいてます。アドバイザリーポートの答申を通ったものじゃないと投資できないというルールになっています。
藤吉:そこでは結構厳しい質問も出るんですか?
出路:かなり(笑)。例えばアカデミアの先生からも「これはずいぶん前の枯れた技術をさも最先端のように言っているだけです。やめた方がいい」というご意見が出たりします。
儲かる投資よりも、大きな投資を
藤吉:なるほど。学者の支援という意味では、ブリヂストン創業時の話を思い出しました。あそこはもともと足袋を作っていた会社ですが、次男坊の石橋正二郎さんが「これからは車の時代だから国産タイヤを作ろう」と言って、一族から猛反対されるんですね。そこで正二郎さんは当時、アメリカでゴムの研究をしてきた九州大学の君島武夫教授に相談に行く。教授から「タイヤを作るのは技術的に非常に難しい。けれどやるんだったら絶対今だ。やるなら協力する」と言われて、この先生と組んで結果的に創業を成功に導くわけです。技術的な裏付け、どうやって社会実装していくのかという道筋を示すという意味でアカデミアの存在って大きいですよね。
出路:それは本当に日々、我々も実感しているところです。
阿部:僕がよく言うのは「儲かる投資じゃなくて、大きな投資をやろう」ということで、やっぱり大きなマーケットになるところを探しにいかないといけない。
藤吉:「未来創生ファンド」は2018年に2号ファンド、2021年に3号ファンドが設立されていますが、投資対象のテーマも変わってますね。新しく「カーボンニュートラル」分野などが入ってきていますが、やはり気候変動への貢献は意識されている?
出路:おっしゃるとおりで、気候変動への貢献も含めて「時代を変える投資」というのが共通するテーマとしてあります。カーボンニュートラル関連ですと、例えばenecoatは京大発のスタートアップでペロブスカイト型太陽電池の研究、開発をしています。どういうものかというと軽量・フィルム形状で柔軟性が高く、曇りや室内光といった低照度環境でも高効率発電が可能な太陽電池なんです。
阿部:僕はあんまり領域をベースには考えてないんです。ただ時代が直面する課題を解決するという発想がないと、新しいものって生まれてこないと思うんです。
「収益の泉」をどう見極めるのか?
藤吉:テック系のスタートアップの場合、研究・開発力はもちろんですが、ビジネスとして供給力・競争力があるかも大事ですよね。阿部さんがよくおっしゃる「収益の泉」があるかないかをどうやって見分けてらっしゃるんですか?
阿部:やっぱりトップにビジネスの才能がないとダメなんですよね。そのあたりは最終的に直接、トップにお会いしてお話をして見極めることが僕の役割です。小さなスタートアップにおけるガバナンスって、監査役がどうこうよりも、トップの姿勢が一番大きい。売上を立てて、自分の足でしっかり立つという姿勢と実績です。利益は出ていなくても、世の中に支持されるものを作ったり売ったりという売上ですね。だから、ものすごく高い株価を言ってきたり、いくら調達したかを自慢してくるような人は、ちょっと嫌ですね。
藤吉:スタートアップは多いですよね、そういう人も(笑)
出路:もうひとつの観点として、日本における少子高齢化のように既に現時点で未来が見えている大きなテーマがありますよね。これはトヨタの方がおっしゃってましたが、工場の従業員が今、25000人くらいいたとしたら、10年後には15000人になることはっきりしてるんだ、と。だとすると今の生産態勢を維持するには、一定の自動化は不可欠だし、その延長上でロボティクスに投資するという発想ですよね。
阿部:つまり投資においては「すでに起った未来」を見逃すなということなんです。人口統計なんていうものはまさに「すでに起った未来」ですし、あるいは他の国で起ったことは将来日本でも起きる確率が高い。そういう観点で時間軸を意識しながら、なおかつグローバルに世界を見ていくことが大切だと思います。
「未来創生ファンド」は次号ファンド(「未来創生4号ファンド」)の組成に向けて動き始めています。

出路貴規 スパークス・アセット・マネジメント株式会社 取締役 次世代成長投資本部長
スパークス・グループ株式会社 グループ執行役員
証券会社勤務、起業を経て2007年SPARX入社M&AにおけるFA、ストラテジスト、再生可能エネルギー投資戦略立ち上げ等を経て、2015年からプライベートエクイティ投資戦略を担当



