中小企業の経営者にとって、AIの導入コストは無視できない負担となりつつある。顧客対応にはChatGPT、マーケティングオートメーションにはClaude、調査や最新情報の収集にはGrokといったように、複数の生成AIツールをワークフローに組み込めば、月額のサブスクリプション費用が300ドル(約4万4200円)を超えることも珍しくない。手頃な価格で利用可能とされてきたテクノロジーが、実際には企業に大きな出費を強いている。
しかし、こうしたコストの多くがソフトウェアではなく、バックエンドのハードウェアに起因していることはあまり知られていない。AIモデルは回答を生成する際、学習したモデルからアウトプットを導き出す「推論」と呼ばれるプロセスを経る。AIの学習には巨額のコストがかかるが、一度完了すれば済む。しかし、推論は日々数十億回発生し、利用量に応じて増えていく。これはAIにおける最大のランニングコストの一つであると同時に、業界全体の電力需給を逼迫させる持続的なエネルギー需要を生み出している。
この見えにくいコストは、個人や小規模事業者にとってAIを高価なツールにしている。しかし、その状況は変わりつつある。「Positron AI(ポジトロンAI)」、「Groq(グロック)」、「Cerebras Systems(セレブラス・システムズ)」、「Sambanova Systems(サンバノバ・システムズ)」といった新興ハードウェア企業が推論コストを劇的に引き下げる競争を繰り広げており、AIは現状の贅沢品から、フリーランサーや教育者、小売業者、起業家が日常的に活用できる身近なインフラへと変化するかもしれない。
これらのスタートアップの中でも、Positron AIは独自のアプローチにより投資家の関心を集め、世界の大手ネオクラウドプロバイダーから最も有力な選択肢として位置づけられている。
「AIの初期段階には、莫大なコストが伴う。AIモデルの学習やエンドユーザーへの推論提供には、膨大な費用とエネルギーが必要だ。推論のコストとエネルギー効率の向上こそが最大のビジネス機会であり、Positron AIはまさにこの分野に注力している」と、ベンチャーキャピタルDFJグロースの共同創業者であるランディ・グレンは指摘する。



