2025年8月25日発売のForbes JAPAN10月号は「30 UNDER 30」特集。30歳未満の次世代をけん引する若い才能に光を当てるアワードで『Forbes JAPAN』では18年より開催し、7年間で総計300人を選出してきた。
今年も4つのカテゴリから30人を選出。ENTERTAINMENT&SPORTS部門のひとり、伊藤匠が将棋界に新風を吹き込んでいる。
7月3日、東京・千駄ケ谷の将棋会館で注目の対局が行われた。8大タイトル戦「第73期王座戦」の挑戦者決定戦。若き絶対王者として将棋界に君臨する藤井聡太七冠への挑戦権を争う、大きな一番だった。
対局者の一人は羽生善治。タイトル獲得数が歴代最多の99期で、将棋界の枠を超えた知名度と人気があるレジェンド棋士だ。そこに相対したのが、藤井と同学年で因縁のライバルとも言われる伊藤匠だった。
多くのファンは、栄冠を三桁の大台に乗せるチャンスを何度も逃しながら、久しぶりにタイトル挑戦に迫った羽生を応援していた。盤外には伊藤への逆風が吹いていた。しかしそれをものともせず、伊藤は持ち時間を半分以上残して完勝。驚異的な事前研究の深さを見せつけた。
その一週間後、伊藤は本局の感想をこう語っている。「周囲のことはあまり意識せずに臨みました。いちファンとして自分も羽生先生のタイトル戦を見てみたい気持ちがありました。でも、大きな舞台で羽生先生と対局できるのはうれしいことだなとも感じていました」。落ち着き払った言葉から、奥に秘めた意志の強さが伝わってくる。
少年時代からのライバル、藤井聡太
伊藤が将棋を始めたのは5歳。クリスマスに親から盤と駒を贈られたのがきっかけだった。後に師匠になる宮田利男が東京の世田谷区で開いている三軒茶屋将棋俱楽部に通い詰め、みるみる上達した。小学3年で出場した全国大会では、見事に準優勝。この時の準決勝で藤井を負かし、大泣きさせたエピソードが今も語り草になっている。2人の勝負は、早くもこの時から始まっていた。
しかし藤井が史上最年少の14歳2カ月でプロ入りを決めると、両者の差が開き始める。デビューから無敗で歴代連勝記録を更新、羽生らトップ棋士を破っての朝日杯優勝、史上最年少でのタイトル獲得…。藤井は信じられないほどの活躍で時代の寵児になり、社会に空前の将棋ブームを巻き起こした。
一方の伊藤は、プロを養成する奨励会に在籍しながら、高校に進んだ。しかし親の反対を押し切って1学期で中退。将棋に専念する道を選んだ。当時15歳で、すでにプロ入り最終関門の三段リーグに参戦していた。傍目からは順調そのものに見える歩み。なのに満足できなかった理由が、藤井の存在だった。
「藤井さんがプロになったあたりから、強く意識するようになりました。常に追いつきたいという気持ちで」。藤井から遅れること4年。三段リーグをトップで通過し、念願のプロ棋士になった。



