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2025.08.23 14:15

映画「パルテノペ ナポリの宝石」女性主人公に託したイタリアの巨匠監督の想い

映画「パルテノペ ナポリの宝石」より ©2024 The Apartment Srl - Numero 10 Srl - Pathé Films - Piperfilm Srl @Glanni Fiorito

映画「パルテノペ ナポリの宝石」より ©2024 The Apartment Srl - Numero 10 Srl - Pathé Films - Piperfilm Srl @Glanni Fiorito

かつてイタリアは「映画王国」であった。19世紀末、フランスでリュミエール兄弟が世界で初めての「映画」を上映すると、直後にイタリアでも映画製作の試みが始まる。

1930年代には「チネチッタ(映画都市)」と呼ばれる、スタジオや屋外セット、編集施設などを完備した巨大な撮影所が建設され、そこには国立映画学校も併設され数々の有名監督を輩出した。

第二次大戦中から戦後にかけては、現実のリアルな描写に重きを置いた「ネオレアリズモ」という潮流が巻き起こり、「無防備都市」(ロベルト・ロッセリーニ監督、1945年)や「自転車泥棒」(ヴィットリオ・デ・シーカ監督、1948年)などの映画史に残る名作も生まれた。

その後もフェデリコ・フェリーニやベルナルド・ベルトルッチなどの世界的名声を得た巨匠監督も登場したが、21世紀に入りイタリア映画はやや沈滞へと向かいつつあった。そのなかで登場したのがパオロ・ソレンティーノ監督だ。

「グレート・ビューティー/追憶のローマ」(2013年)で第86回アカデミー賞の外国映画賞を受賞すると、英語作品の「グランドフィナーレ」(2015年)やNetflixで製作された「The Hand of God−神の手が触れた日−」(2021年)などの意欲作を発表、いずれも世界の映画祭で高い評価を得ている。

そのイタリア最後の巨匠と言ってもよいパオロ・ソレンティーノ監督の最新作が「パルテノペ ナポリの宝石」だ。この作品でソレンティーノ監督は、初めて女性を主人公に据えて、彼女に自身を投影しながら、故郷でもあるイタリアのナポリとこの街に対する自らの想いを描いている。

視線を集める「美の化身」パルテノペ

1950年、船舶業を生業とする裕福な家庭に1人の女性が生まれる。出産は豪奢な邸宅の前に広がる入江で行われ、ギリシャ神話の人魚の名前でナポリの街を意味する「パルテノペ」と名づけられる。

パルテノペ(セレステ・ダッラ・ポルタ)の水中出産を見守っていたのは、繊細な心を持つ兄のライモンド(ダニエレ・リエンツォ)と使用人の息子であるサンドリーノ(ダリオ・アイタ)。パルテノペを交えて3人は仲の良い幼馴染として育つ。

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文=稲垣伸寿

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