Forbes JAPANでは2023年から、事業共創に挑むプレイヤーに光を当てる「クロストレプレナーアワード」を開催している。共創により、一社では成しえない価値の創出に挑む──。そんな思いを体現しようとするクロストレプレナーを全国から募り、5つのプロジェクトを表彰した。
そのなかで、ソーシャルビジネス賞を受賞したのは「CHOCOPENプロジェクト」だ。アフリカ・ガーナの地で取り組まれている、廃棄されるカカオ殻から鉛筆をつくるプロジェクトが生み出す価値は、ゴミ問題解決にとどまらない。
8月25日発売のForbes JAPAN10月号では、5つのプロジェクトを紹介するとともに、事業共創の最新動向を解説している。
ガーナのゴミ問題と聞いても、自分事としてとらえづらいが、日本人にも関係している。日本から寄付で送られた古着の多くはゴミとして埋め立てられ、廃棄物となるカカオ殻も、チョコレートとなって日本人の口に入るだけ生まれる。こうした課題に挑もうと立ち上がったのが、アフリカでアパレル事業を手がけるDOYA CEOの銅冶勇人と、その利益を元手に教育支援などの活動を担うNPO法人CLOUDY副理事の鳥居優美子だ。
ふたりが目を付けたのはカカオの殻。「腐敗するとマラリアやメタンガスの原因になり、健康被害につながる」と鳥居が言うほど深刻な問題だったが、銅冶はこの殻を鉛筆にしたいと考えた。鉛筆が多くの子どもの学習の原点であり、使う際に学ぶ喜びを実感できるものだと思ったからだ。ゴミ問題の解決にもなり、鉛筆製造の雇用も生むため、一石三鳥の効果が見込まれる。それで、三菱鉛筆の門を叩いた。
社長の数原滋彦にプレゼンを行う機会を得た銅冶は、数十枚の資料をもって話しにいったが、数原は開始数分で共創へのGOサインを出した。「彼の思いに共感し、できるかできないかじゃなく、やろうよ、といいました」(数原)
完成に2年以上の歳月
しかしプロジェクトは難問の連続。特に鉛筆の軸は、カカオの殻を粉末にして固めるため木の板に比べ強度に課題があったが、研究員らが改良を重ね、クリア。またガーナでは停電が多く、機械が故障するなどといったトラブルも多くあったが、そのたび、ガーナにいる鳥居が日本とテレビ電話をつなぎ、三菱鉛筆の技術者からアドバイスをもらった。機械も何度も改良してもらった。そして2024年9月、2年以上の歳月を経て「CHOCOPEN(チョコペン)」が完成した。当初は、半信半疑だったガーナ人たちも驚くほど喜んだという。
今後の展開について急拡大は目指していない。銅冶は語る。「カカオの殻を砕くのに使っているのはハンマーです。機械にすれば生産性は上がりますが、我々は雇用を増やす目的もあるため、特別な技術や教育がなくとも現地の人が担えるハンマー仕事を減らしたくはない。そういう意味で、成長はガーナのスピードで進めたい」。数原も「商品の価値には機能的価値と情緒的価値がありますが、今回は情緒的価値を訴求すること。いかにストーリーを知ってもらうかが大事」だという。チョコペン事業は売れれば成功ではない。共感の輪をいかに広げられるか──。「拡大再生産」とは異なる挑戦でもあるのだ。
鳥居優美子◎CLOUDY副理事。2008年慶應義塾大学経済学部卒業。15年にCLOUDY入社。ガーナ現地の統括責任者として教育・雇用・健康を軸とした活動に従事(写真左)。
数原滋彦◎慶應義塾大学経済学部卒業。2005年に三菱鉛筆に入社。13年取締役経営企画担当、17年に取締役常務となり、18年に取締役副社長、20年より現職(同中央)
銅冶勇人◎DOYA CEO / CLOUDY代表理事。2008年慶應義塾大学経済学部卒業後、ゴールドマン・サックス証券に入社。10年にCLOUDYを、15年にDOYAを設立(同右)。



