ONE PIECEもアート作品に 先端技術×精密印刷が拓くマンガの新時代|集英社×スタートバーン×エプソン販売

(写真左から)藤本剛士・岡本正史・施井泰平

(写真左から)藤本剛士・岡本正史・施井泰平

Forbes JAPANでは2023年から、事業共創に挑むプレイヤーに光を当てる「クロストレプレナーアワード」を開催している。共創により、一社では成しえない価値の創出に挑む──。そんな思いを体現しようとするクロストレプレナーを全国から募り、5つのプロジェクトを表彰した。

そのなかで、カルチャーインパクト賞を受賞したのは「集英社マンガアートヘリテージ」だ。日本が世界に誇るマンガを次世代に受け継がれるものに──。その掛け声のもと、出版、ブロックチェーン、印刷という業界を超えた3社が手を組んだ。

8月25日発売のForbes JAPAN10月号では、5つのプロジェクトを紹介するとともに、事業共創の最新動向を解説している。


マンガは、高いエンタメ性で世界から評価されるが、アートかと問われれば悩ましい。一方で原画は経年劣化に弱く、価値が高まってから守ろうとしても手遅れになる。こうしたなかで、一人の男が、マンガを次世代に受け継がれるアートにするべく立ち上がった。

集英社の岡本正史は、同社がマンガをデジタルアーカイブ化する取り組みを行うなか、精密に描かれた原画を見て衝撃を受けた。それまでマンガ編集とは無縁だったが、原画を忠実にプリントにして、アート作品として後世に伝えていく使命感を彼に芽生えさせた。しかし、2つの課題があった。価値をいかに証明するか、どれだけ原画を精密に再現できるかだ。

オリジナルの証明は、ブロックチェーンによるアートの流通や評価のインフラ作りを手がけるスタートバーン代表の施井泰平と行った。「アート市場に流通する作品の約半分が贋作と言われ、それが市場を縮小させている」という施井は、来歴記録をブロックチェーン技術で担保する仕組みを構築してきた。それを活用して原画プリントの真正性を担保し、書体や製版、印刷といった技法や技術も記録した。

試練続きの色再現

原画の再現で組んだのがエプソン販売だ。商業印刷であれば4色のかけ合わせで色を出すが、インクジェットなら10色以上と色域も広い。印刷に使用する紙も幅広い選択肢があるため、担当したエプソン販売の藤本剛士は、決して不可能な課題ではないと考えていた。しかし、「色をイメージ通りに再現する技術は業界でもトップクラスという自負があったが、最初から窮地に追い込まれた」と苦笑する。

例えば、ONE PIECEの「暫(しばらく)」という作品では紺色に近い色が、どうしても出ない。その部分だけ色を原画に近づけると、全体の色調がくずれるなどの試練が続いた。藤本は難題を乗り越えるため、色彩再現のスペシャリストを総動員するとともに、クオリティを担保するためエプソン信州工場の一角に工房を立ち上げ、プリントを自社生産することを決めた。その結果、作家も驚くほどの再現に成功。すでにいくつもの作品が販売されている。

この取り組みが、いよいよ世界の舞台に立つ。25年9月、世界的な美術館では初となるマンガの展覧会が米デ・ヤング美術館で開催される。展示の最後には本プロジェクトの作品も並ぶという。「この美術展がアートとしてのマンガを知ってもらう契機になる」(岡本)。

世界に誇るマンガは、今アートとして歩み始めている。

尾田栄一郎が原作者の「ONE PIECE」の作品。「週刊少年ジャンプ」2010年44号で掲載されたものをアート化。ONE PIECE ©Eiichiro Oda / Shueisha Inc.
尾田栄一郎が原作者の「ONE PIECE」の作品。「週刊少年ジャンプ」2010年44号で掲載されたものをアート化。ONE PIECE ©Eiichiro Oda / Shueisha Inc.

藤本剛士◎エプソン販売マーケティング本部LFPMD部長。印刷・写真業向けの営業を経て、2019年よりプロフェッショナルプリンターの国内マーケティングに従事(写真左)。

岡本正史◎東京芸術大学卒業後、集英社入社。マンガ製作のデジタル化、デジタルコミック配信の標準化などを行う。2023年、麻布台ヒルズにギャラリーをオープン(同中央)。

施井泰平◎美術家、起業家。多摩美術大学卒業後に美術活動開始。東大大学院在学中にスタートバーンを創業、ブロックチェーンインフラ「Startrail」を展開(同右)。

文=古賀寛明 写真=小田駿一

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