2025年7月に経営体制を刷新し、IPOを見据えた組織拡大フェーズに入ったソーシング・ブラザーズ。新たな経営陣の一人としてジョインしたのがプロフェッショナルファームで豊富な経験を持つ池田翔氏だ。ソーシング・ブラザーズのCVC支援のどこに惹かれ参画を決めたのか。従来とは異なる新しいアプローチと独自の提供価値について話を聞いた。
コンサル・VC経験者だから見出したCVC事業の可能性
メガバンク、コンサルティングファーム、ベンチャーキャピタル(VC)を経験し、ファンド運用やスタートアップ投資などで多くの実績をあげてきた池田翔氏。次のキャリアとして数多の選択肢があった中、ソーシング・ブラザーズを選んだ理由は何だったのか。長くプロフェッショナルファームで“アドバイザー”の役割を担ってきたからこそ、自分でやりたい、という思いが強くなっていったと池田は言う。
「これまで一貫して、アドバイザーとしてのキャリアを積んできました。メガバンクでは融資先に対して、コンサルティングファームではクライアントに対して、VCでは出資先に対して、大きな事業を創り出すために頑張りましょうと伴走する立場です。いずれも社会的意義のある面白い仕事で、とても充実していました。でもどこかで『偉そうなことを言うだけじゃなくて、お前もやってみろよ』と思う自分がいました。
これまでの経験を活かしながら、自ら事業を創っていきたいという思いが強まっている中で、代表の二人に出会ったことが参画のきっかけです。また、多くのスタートアップを見てきた中で、起業家が優秀な人材をどれだけ巻き込めるかが事業拡大のキーになると感じてきました。代表の二人は私よりもだいぶ若いのですが、その熱意とコミットメントの高さに、見事に巻き込まれた形です」
何より、大企業とスタートアップの連携を生み出すソーシング・ブラザーズのCVC支援事業に、これまでにない新しいビジネスモデルを広げていく面白さがあると感じていた池田。オープンイノベーション市場はまだまだ大きくなる可能性がある、と話す。
「コンサルティングファームにいた時代に、優れた技術やネットワークなど豊富な資産を持つ多くの大企業を支援してきました。でも、大企業は既存事業の運営を最適化する組織になっていて、評価体制の点でも、新しいことをどんどん進めていくのは難しいケースがある。技術革新の変化が早い昨今では自前主義には限界があり、オープンイノベーションに取り組みたいと考える一方で、新しい領域に踏み出すことに躊躇しやすい構造があります。
一方で、スタートアップは、斬新なアイデアと行動力で、尖ったプロダクトやサービスを創り出すのが得意です。資金力とネットワークは乏しいかもしれないけれど、優秀な起業家たちが人生を賭けて取り組む圧倒的な熱量があります。大企業とスタートアップはまさに“ないものを補完し合える”関係性です。その両者を結びつけ、大企業とスタートアップの連携を支援するCVC支援事業は、非常にユニークで価値があると考えています」
これまで、大企業とスタートアップの橋渡しは、スタートアップ投資のプロであるVCが担うことが多かった。一部のVCは、大企業から預かった投資資金をスタートアップに出資し、出資先と大企業との事業連携を支援していく。対して、ソーシング・ブラザーズは投資資金を預からない。ここに、ソーシング・ブラザーズの大きな特徴がある。
「VCは一般的に、100社のスタートアップに出会って、そのうち投資に至るのは1~2社です。出資先の成長がVCの利益に直結するため、出資先へのあらゆる支援を惜しみませんが、出資しなかった98社への支援はしづらい構造です。一方で、ソーシング・ブラザーズは自らは投資を行わないので、100社すべてをお手伝いできます」
大企業がVCファンドに投資する場合、金額が大きくなりがちなことに加え、10年など長期にわたる契約となるため、運用期間中に大きく方針転換するようなフレキシブルな対応は難しい。ソーシング・ブラザーズのCVC支援事業では、例えば、オープンイノベーション活動をスタートした翌年に経営環境が変わってスローダウンをしたくなった際など、状況に応じて連携や支援の進め方を変えていく。そのフレキシビリティの高さもまた、独自の強みだといえる。
例えば、今年はスタートアップ投資を加速するが、来年は投資ペースを緩めて出資先との新規事業創出に注力する、など臨機応変に対応できる。また、大企業のニーズにオーダーメイドで対応するので、投資ではなく、スタートアップとの事業提携や共同開発を目的としたオープンイノベーション活動の支援も行っている。
CVC市場を牽引するソーシング・ブラザーズ独自のアプローチ
VCとファンドを組成しないのなら、大企業が自力でスタートアップ連携を進めればいいのではないか…という指摘もあるだろう。しかし、それを実行するのは、多くの大企業にとって至難の業だという。大企業と小規模なスタートアップはエコシステムが異なるため、そもそも適切なスタートアップに出会えない、出会ったとしてもどう評価すればいいかが分からず、投資検討や事業連携が前に進まない、といったケースが頻発している。
実際に、「ピッチイベントに参加してスタートアップと接点を持ったり、VCからスタートアップのリストをもらってはいるものの、何らオープンイノベーションが進まない」というケースを池田は何度も目にしてきた。
「大企業とスタートアップが出会っても、コミュニケーションが進まないケースが多いんです。仮に投資に至っても、その後に異なる文化のプレイヤー同士で連携を進めるノウハウもない。大企業とスタートアップでは事業のスピード感や規模感が違うので、両者の間をつなぐコミュニケーションサポート役がいなければ、相互理解が進み難いのが現実です」
ソーシング・ブラザーズは、組織体としてスタートアップでありながら、大企業出身者が多く、大企業ならではのカルチャーを理解しているメンバーが多い。そこに加え、スタートアップ人材支援やM&A支援事業を通じてスタートアップエコシステムで一定の役割を果たしている。そのため、大企業とスタートアップの双方を理解したコンサルティングに精通しているという強みがある。
「現時点でCVC活動を支援させていただいている大企業は20社ほど。一社一社の課題やニーズを理解し、それに合ったスタートアップを探索し、事業連携、共同開発、出資、場合によってはM&Aなどそれぞれのベストなやり方を模索し、一緒になって課題解決に向かっていく。その全プロセスに伴走するのには大変なパワーがかかります。
しかし、創業から6年経ち、スタートアップのネットワークは充実していますし、これまでの経験からCVC運営が苦戦するパターンも型化できつつあります。これからは、事業拡大を一気に推し進められるフェーズです。また、CVC支援から始まってM&Aまでご支援させていただく、国内プロジェクトから始まって海外展開までご一緒するなど、お付き合いをどんどん深めている事例も出てきており、CVC支援事業自体もさらに進化させられると思っています」
日本企業にフィットするイノベーション創発の新たな道筋
スタートアップには、短期間で時価総額が何十倍、何百倍にもなる“投資対効果”の高いところがある一方で、成長には時間を要するものの、ニッチな高度技術を有していたり、独自のビジネスモデルで堅調に売上を積み重ねるところもある。後者のような、高い投資倍率を叩き出すことが至上命題であるVCではタッチしづらいスタートアップを支援できる点こそ、ソーシング・ブラザーズが創業以来掲げてきた「日本をアップデートする」というミッション実現のキーになると、池田は自信を見せる。
「VCが投資すべきスタートアップと、大企業が組むべきスタートアップは同じとは限りません。VCによるスタートアップ出資において、一般的にはIPOが望ましいゴールです。一方で、大企業が求めているのはキャピタルゲインではなく、スタートアップが持つ独自の技術やノウハウを自社に取り込むことかもしれない。
そうだとしたら、大企業にとっては、出資先スタートアップのIPOよりも、最終的にM&Aで一緒になることが最適解かもしれない。VCやコンサルティングファームだけでは埋められない多様なニーズに応えていくことが、我々のミッションだと考えています」
昨今では、異なる強みを持つプロフェッショナル同士として、VCとソーシング・ブラザーズが連携する事例もできており、新たな“補完関係”を築きつつある。
「今後は、ソーシング・ブラザーズ側から支援している大企業に対して『この領域については、関連ネットワークが強いVCへのLP出資も活用しましょう』『投資資金の規模が大きくなってきたので、来期からはVCと連携したファンド組成を検討しましょう』と戦略的に提案するケースも出てくると思っています。また、VCから『出資には至らなかったが、面白いスタートアップなので大企業と連携できないか』といったお問い合わせいただくケースもあります。大企業とスタートアップの間でプロデューサーのようにマッチングを図るほか、複数の大企業と複数のスタートアップのコンソーシアムを主導するような事例も生み出していきたいです」
池田自身は、コンサルティングファームで大企業支援を、ベンチャーキャピタルでスタートアップ支援に取り組んできた。両者の特徴や違いを理解しつつ、ソーシング・ブラザーズにおいて自らスタートアップの現場を体験することで、CVC支援事業の更なるレベルアップにつなげていけるはずだと話す。
「ソーシング・ブラザーズのCVC支援事業は、多くのお問い合わせや継続的な支援依頼をいただいている状況から、お客様にご評価いただいている実感はあるものの、まだまだ不確実性のあるスタートアップです。コンサルティングファームやVCはいまや、検証されたビジネスモデルに支えられた王道のキャリアパスになりつつあります。そこで得たスキルを活かしながら、誰も正解を持っていないモデルで、新しい事業を創り出す。その面白さは、ソーシング・ブラザーズでしか体験できないことだと確信しています」
ソーシング・ブラザーズ
https://sbro.co.jp/
いけだ・しょう◎ソーシング・ブラザーズ取締役事業統括本部長。一橋大学卒業後、みずほ銀行入社。中堅中小企業支援やシンジケートローン組成業務に従事。その後デロイト トーマツ コンサルティングへ入社、新事業の企画・運用や事業戦略の立案・実行支援など幅広い案件に取り組む。2018年にグローバル・ブレインに入社。日本および東南アジアにおいて、スタートアップへの投資実行、投資後の支援、およびCVCファンド運用に従事。2025年7月よりソーシング・ブラザーズ取締役に就任。



