実用化で先行する競合ウェイモに対抗できない現実
こうした法的な打撃は、少なくとも今のところテスラにとって巨大な財務上の問題にはなっていない。しかし、この状況は同社が自動運転分野で先頭を走っているというマスクの主張に疑念を生じさせ、テスラの評判を損なっている。一方、米国の5つの主要都市で商用ロボタクシーを運行し、さらに10都市で試験中のアルファベット傘下のウェイモは、この分野の支配的な地位を確立した。
マスクは決算説明会でテスラが最終的にウェイモを追い抜くと主張し、その理由が「コストの低さ」だとした。だが、6月にオースティンで開始したテスラのロボタクシーの実証試験は、人間のセーフティードライバーを前席に乗せており、同社がウェイモに追いつくためには、まだ遠い道のりがある。
「現状で、一般市民を乗せて実際の道路を走行するロボタクシーが存在する。しかし、その中にテスラの車両は含まれていない」とサウスカロライナ大学の教授で自動運転研究者のブライアント・ウォーカー・スミスは指摘する。彼は7月にカリフォルニア州のDMVがテスラを訴えた裁判で、専門家の立場から証人を務めていた。
テスラの自動運転はレベル2にとどまる
テスラが本社を置くオースティンで実証試験を始める前、同社のエンジニアは規制当局に対し、自動運転関連のテクノロジーが、「オートパイロット」「フルセルフドライビング(FSD)」という名称にもかかわらず、技術的には「レベル2に分類される」と説明していた。これは、テスラの機能は運転支援にすぎず、運転手は常にハンドルを握り、即座に介入できなければならない。テスラが現在進めているロボタクシーの実証試験では、前席にセーフティ要員が座っているほか、遠隔オペレーターが車両を監視し、問題が発生した場合には運転を補助している。
サウスカロライナ大学のスミスは最近、米国でウェイモが運営するロボタクシーと、中国のバイドゥが運営するロボタクシーの性能を比較した研究を発表した。その中で彼は、マスクが掲げる自動運転の目標が何年も実現していない点を異例だと指摘した。「2010年代初頭には、どの企業も過度に楽観的な発言が多かった。しかしテスラ以外の会社は、その主張を実現させたか、もしくは、控えめな主張にした」と彼は述べている。
実現しなかった100万台ロボタクシー計画
マスクは、テスラの2019年の投資家向けイベント「オートノミーデイ」で、「2020年までに100万台のロボタクシーを走らせる」と豪語したが、実現しなかった。同じイベントで彼は、FSD搭載のテスラ車の価値が時間とともに高まり、同社が運営するロボタクシーネットワークに参加すれば、「オーナーが年間最大3万ドル(約444万円)の追加の収入を得られる」と述べていた。ところが、中古車情報サイトiSeeCarsの最新月次レポートによると、今年、全ブランド中で最も価値を失ったのは中古テスラだった。価格は7月だけで5.3%値下がりした。


