北米

2025.08.24 09:00

AIで全米の声を拾い上げる――グーグル「Gemini」関与の次世代「世論調査」

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世論調査業界の現状と市場規模

世論調査ビジネスの市場は、AIに比べれば控えめな規模だ。調査会社Research and Marketsによると、イプソス、ピュー研究所、ニールセン、クイニピアックといった主要企業を含む2025年の世論調査の市場規模は89億3000万ドル(約1.3兆円)で、前年の87億ドル(約1.27兆円)からわずかに拡大したが、今後は安定的な成長が続き、2029年には102億3000万ドル(約1.49兆円)に達すると予測されている。また、この分野には、ピュー研究所やクイニピアックのように世論調査を専門とする組織もあれば、ラスムセンが2003年に設立したラスムセン・リポーツのように候補者に焦点を当てる調査会社もある。

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ラスムセンの過去の関与と保守的偏向の疑念

ラスムセンは2013年にラスムセン・リポーツを離れたものの、そのつながりがこのプロジェクトに望ましくない印象を与える可能性がある。

というのも、ラスムセン・リポーツが長らく「保守派に偏っている」と批判されてきたからだ。共和党候補を有利に扱い、高齢層に偏り、結果的に保守派を利する調査を出してきたと非難されてきた。2024年の米大統領選では、同社がトランプ陣営の関係者と世論調査結果を共有したとも報じられていた。

こうした「保守寄り」の疑念について問われると、ラスムセンは自らが創設した会社と距離を置こうとした。「私はこの会社を離れて以来、何の関わりも持っていない。彼らはこのプロジェクトにまったく関与していないし、ここには何の問題もない」と彼は語った。

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AIの政治利用がもたらす光と影

このプロジェクトは、AIがすでに世界の政治や選挙に影響を及ぼすなかで立ち上げられた。2024年の米大統領選では、バイデン前大統領の声を模したディープフェイクがニューハンプシャー州の有権者に予備選に行かないよう呼びかけた。インドネシアでは、ゴルカルという政党がAIで2008年に死去した独裁者スハルトを再現し、同党の候補者への支持を表明させた。トランプ大統領は、自身のSNSのトゥルース・ソーシャルにAI生成のミームや動画を繰り返し投稿しており、先月はオバマ元大統領がホワイトハウスの大統領執務室で拘束される映像をシェアした。

3段階で進められる対話型プロセス

グーグルのJigsawとラスムセンのナポリタン研究所は、AIをもっと建設的な形で活用したいと考えている。このプロジェクトは、3段階で進められ、第1段階では、参加者が自由・平等についての質問に答える。例えば「あなたにとって自由とは何を意味しますか」といった問いだ。

その後、グーグルのAIモデルがテーマを掘り下げるために追質問を生成し、「ソクラテス風の人格」をとるとグリーンは説明する。例えば「自由を感じることが、批判されることなく自分を表現できることだとすれば、あなたが最も制約を感じた経験を教えてもらえますか」といった具合だ。このプロセスの狙いは、大きなテーマから始め、徐々に具体的な議論へと進めていくことにある。

第2段階では、グーグルのAIツールが第1段階の回答をまとめ、全体的なテーマや議論のポイント、データの可視化に落とし込む。そこから参加者は再び反応し、さらに考えを共有する機会を得る。第3段階では、グーグルのAIがこれまでのすべての回答を分析し、それに基づいて断定的な文を生成する。最終的に参加者は、その文に賛成か反対かを投票し、自分と他者との共通点がどこにあるかを確認できる。

AI利用に伴うリスクと透明性確保の方針

主催者側も、AI利用のリスクは認識している。AIがプロンプト(質問)の生成や回答分析で偏りを示す可能性があるうえ、数千の回答を要約する過程で個人的かつ繊細なニュアンスが失われる恐れがあるからだ。その防止策として、グリーンは、グーグルがAIを定期的に評価し、すべての参加者の回答を完全に公開することで透明性を確保すると説明した。

そして、プロジェクトの終了後には、グーグルが結果のサマリーレポートを発表し、すべての回答・質問・プロンプトをオープンソースとして公開する予定だ。また、その成果を政策立案者、シンクタンク、学界に報告する計画もある。

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編集=上田裕資

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