北米

2025.08.24 09:00

AIで全米の声を拾い上げる――グーグル「Gemini」関与の次世代「世論調査」

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全米の声をAIで集める「We The People」計画

こうしてこの野心的なプロジェクトが始まった。来年7月、米国が建国250周年を迎えるのに合わせ、グーグルのJigsawは、ラスムセンの非営利団体「Napolitan Institute(ナポリタン研究所)」と連携し、AIを活用した全米調査に乗り出す。グーグルはこの「We The People」と呼ばれる取り組みについて、フォーブスに独占的に明らかにした。彼らは、全米435の選挙区ごとに5~10人を集め、「アメリカ人であるとはどういうことか」「国が直面する最も差し迫った課題は何か」「この国はどこへ向かうのか」について尋ねるという。

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「私たちはAIを使って、人々が自分の声を持ち、自身の選択をできるようにしたい」と、グーグルに19年間勤務し現在JigsawのCEOを務めるヤスミン・グリーンはフォーブスに語った。「自分の声があると感じられなかったり、自分の声が政治家に届いていないと感じれば、人々は社会の一員としての権利や、自ら状況を動かせる力を持っていると思えなくなる」と彼女は述べている。

従来型世論調査の限界とAI活用の可能性

このプロジェクトは、一見すると心地よい一体感をもたらす取り組みに見えるが、その影響はさらに広範囲に及ぶ。なぜなら、AIが世論調査を変革する機会は非常に大きいからだ。従来の世論調査には、欠陥や不正確さがつきもので、2016年の大統領選でヒラリー・クリントンの勝利を予測して外したことは悪名高い。世論調査は一般的に、候補者に投票するかどうかを問う「選挙キャンペーン調査」と、ある課題についての考えを問う「世論調査」に分類されるが、どちらも形式は似ている。調査員が、人々が答えてくれるのを期待して電話やテキストでアンケートを送り、属性に応じた補正をかけるというやり方だ。

ラスムセンによると、AIで投票先を予測するのは難しい。しかし、選挙キャンペーンの組み立てを変える可能性はあるという。例えば、政治家を目指す人物は、AIで生成したプロンプトを使い、有権者が関心を持つテーマを従来のイエス・ノー形式よりはるかに深いレベルで引き出せる。その上で、そうした洞察に基づいてテーマを極めて細かく絞り込んだ選挙キャンペーンを設計できるのだ。「人々に自分の言葉で答えさせること、そして他の人の回答に応じて答えさせること——それを可能にするのは業界にとって革命的だ。これはまったく別のゲームだ」とラスムセンは語る。

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Jigsawのグリーンもその広範な可能性を見ており、市場調査・世論調査といった応用例を挙げている。「私たちのアイデアからビジネスが生まれれば、その価値が本当に証明されたことになる。そうなれば、これほどうれしいことはない。私たちの仕事は、この手法の有用性を実証することなのだ」と彼女は語った。

台湾vTaiwanからの学びと民主的実験

このプロジェクトは台湾で行われた類似した取り組みから着想を得たものだ。2016年、台湾政府はインターネット上の政策論争のためのプラットフォーム「vTaiwan」を立ち上げて、アルコールのネット販売への規制などの立法提案について人々が議論し、投票できるようにした。

「このような議論は、従来型の世論調査やアンケートのように人々を固定化された枠に押し込めるのではなく、生成的で互いの理解を促進する。それによって人々は、新しいアイデアや感情を生み出し、それに他の人が共感することができる」と、このプロジェクトを推進し、その後台湾初のデジタル担当大臣となったオードリー・タンはフォーブスに語った。以来、vTaiwanは約20件の立法審査を支援し、2023年にはOpenAIから10万ドル(約1460万円。1ドル=146円)の助成金を獲得した。この助成金は、OpenAIが「AIシステムが従うべきルールを決めるための民主的プロセスを構築する実験に資金を提供する」というプログラムの一環だった。

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編集=上田裕資

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