北米

2025.08.24 09:00

AIで全米の声を拾い上げる――グーグル「Gemini」関与の次世代「世論調査」

Shutterstock.com

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グーグルと世論調査の非営利団体が、AIで全米の声を集める実験に乗り出す。全米435選挙区から少人数の市民を集め、政治や社会への本音をすくい上げ、分析する。もし成功すれば、長年限界が指摘されてきた世論調査の常識が塗り替わる可能性がある。

AIで世論調査を変革しようとする試み

今年初め、長年にわたり世論調査と政治評論に携わってきたスコット・ラスムセンは、シボレー・コルベットの組立工場や、アパレル企業フルーツ・オブ・ザ・ルームの本拠地として知られているケンタッキー州ボウリンググリーンを訪れた。ナッシュビルの北約105キロに位置するこの街を見学した後、自宅に戻ったラスムセンは1つの新しい発想を得た。

それは、人工知能(AI)で世論調査を変革するというアイデアだ。彼が何十年も研究してきた、不安定で不正確になりがちなこの手法を根本から変えようというのである。その実現に向け、彼は意外なパートナーであるグーグルと手を組むことになった。

グーグル傘下のシンクタンクJigsawとの出会い

ラスムセンがボウリンググリーンを訪れた目的は、グーグルの内部でネット上の過激主義などの社会的課題に取り組んでいるシンクタンク「Jigsaw(ジグソー)」の活動を見るためだった。このときJigsawは、ボウリンググリーン市と周辺郡の地方自治体と協力し、市民の政治参加を促す実験を行っていた。

この実験は、住民に対して関心のある課題について尋ねる形式で行われた。例えば「大手レストランチェーンのデイブ&バスターズの進出」から「大麻合法化の是非」まで、さまざまなテーマが対象となった。Jigsawは、その回答をグーグルの言語モデルGeminiを基盤にしたAIツール「Sensemaker(センスメーカー)」で分析し、住民の意見の対立点と共通点を抽出した。

ラスムセンはその成果に驚き、「分断した政治言論空間を修復する可能性を見出した」とフォーブスに語った。「この調査を全米で行ってみたらどうだろう?」と彼は考えた。

米国社会を10対10対80で捉えるラスムセンの視点

「目標は、人々の共通点を発見することだ」とラスムセンは語る。1979年に父親のビルと共にスポーツ専門チャンネルESPNを創設した人物でもある彼は、アメリカの政治的な構図は「50対50」ではなく「10対10対80」だと主張する。つまり、全体の10%を占めるトランプ支持の保守強硬派のMAGA陣営が、10%の極左グループと対立しており、その中間の80%は「頭を低くして飛び交う弾丸を避けようとしている」のだという。ラスムセンはこの取り組みが、その「中間の80%」に光を当てるものになると期待している。

従来の世論調査の問題は、二者択一の設問によって、質問者が議論の方向を操作できてしまう点にあると彼は言う。「イエスかノーかの答えでは複雑さが削ぎ落とされてしまう。質問の仕方を変えたり、人々の意見の捉え方を変えたりすると、これまで思いつきもしなかったことを聞くことができる」とラスムセンは語る。

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編集=上田裕資

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