暗号資産

2025.08.21 09:30

ステーブルコインは本当に「ステーブル」なのか? その潜在力とリスク

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マクロな視点から見ると、ステーブルコインはグレーないしブラックな経済をデジタル化するのにとどまったり(したがって全体として金融・経済にプラスの効果はない)、金融インフラが貧弱な新興国で非常に魅力的な資産になったりする可能性のほうが高い。その場合、ステーブルコインの経済的な効果は、新興諸国から資本を流出させ、それらの国々(とその通貨、債券市場も)を弱体化させるというものになる。実のところ、代表的なステーブルコインのひとつである「テザー(USDT)」はトルコで非常に人気がある。トルコの金融システムはレジェップ・タイイップ・エルドアン現政権によって著しく弱体化しており、その専制的な統治スタイルは企業側に既存の経済システムの「外」で取引をする動機を与えている。

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もうひとつの大きなリスクは、先に触れた安価で迅速な送金手段というステーブルコインの明白な利点によって、銀行や決済会社の収益性が切り崩されることだ。とくに、ステーブルコインの保有者が利回り(専門的には「リウォード」と呼ばれる)を得られるようになれば、その影響は顕著になる。既存の金融システムはこれを嫌がるだろうし、大手の金融機関は適応できそうなものの、多くの中小金融機関は苦境に立たされるだろう。規制の観点からも、銀行システムの弱体化は望ましくなく、当局の監視の目からドルの動きが見えにくくなる場合はそれも好ましくない。ステーブルコインに関しては欧州連合(EU)の「暗号資産市場規制(MiCA)」や米国の「GENIUS(ジーニアス)法」など、すでにいくつかの規制枠組みがある。

こうした事情からステーブルコインは、規制下に置かれる(暗号資産業界では忌み嫌われがちだ)か大手の既存金融機関に採用されない限り、金融システムの安定性や質を低下させ、ボラティリティーを高めかねない。実際、欧州中央銀行(ECB)の研究者たちは、暗号資産(ビットコインなど)の値動きが荒い時期には、ステーブルコインも、それを裏づける資産(米国債)にはみられない価格変動を示していたことを明らかにしている。

地政学的あるいは地経済的な観点から見ると、安全なドル建て資産(米国債)に裏づけられたステーブルコインの普及は少なくとも、グレー経済や新興国経済のドル化を進める手段にはなる。ECBをはじめとする中央銀行にとっての問題は、ステーブルコインにどう対応するのが最善なのかということだ。

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筆者の考えでは、進むべき道は2つある。ひとつは、金融機関や企業によるステーブルコインの開発を奨励し、のちのデジタルユーロの導入に道筋をつけること。もうひとつは、欧州のステーブルコインをロシアやベラルーシ、「スタン」諸国、EUに加盟していない旧ソ連諸国などで普及させ、もしこう呼べるのなら「ルーブル圏」から、その巨大なグレー経済を流れるマネーを奪い取ることだ。

forbes.com 原文

翻訳・編集=江戸伸禎

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