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が語るこれからの経営課題

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セブン&アイHD×PwCが語る流通DXの最前線 未来を拓く「攻めと守り」のデジタル戦略

IT・DX が拓く、セブン&アイの新たな成長戦略とミッション

林 和洋(以下、林):事業構造改革が進展し、経営体制も刷新されました。現中期経営計画の最終年度を迎え、来年度からは新たな中期フェーズに入られます。この重要な局面においてITやデジタルの力をいかにグループ全体の競争力強化・新たな成長につなげていくのでしょうか。まずは戦略的な展望をお聞かせください。

西村 出(以下、西村):事業構造改革は、広義で言えば「変化対応」です。ビジネスにおいて変化対応は非常に重要で、ITにおいても、自分たちの意思が利かせられる仕組みと体制にしておくことが大切だと考えています。着任以来、ベンダー様への依存度が高い状態では変化対応が難しいと感じていたため、今はそうした体制・アーキテクチャーへの変革を進めているところです。

新たな経営体制で大きく変わるのが「グローバル対応」です。ITやDXは、そのグローバリゼーションに「スケール」「可用性」「パフォーマンス」のすべてに対応できるものでなければなりません。これらをコスト合理性と両立させながら実現できるIT・DX構造にしていくことが、今の最大のミッションです。

:自分たちの方針や意思に基づき、柔軟に対応できるIT環境をグローバルで整えるということですね。

西村:はい。ただ、日本だけでもセブン‐イレブンは1日約2,000万人のお客さまが2万店を超える店舗に来店されるため、膨大なトランザクションが発生します。これをすべて内製でやりきるのが合理的かというと、そこはちょっと違う。内製とアウトソースのバランスをしっかり取りつつ、それぞれの得意な部分を見極めて体制を組むことが大事だと考えています。

:グループDX本部長、そしてセブン‐イレブン・ジャパンのシステム本部長としての西村さんのロールとミッションについては、どうお考えですか。

西村:今後、グループはコンビニエンスストア事業に集中し、グローバル展開を進めます。そういった変革を推進する場面でこそ、IT部門の役割が重要になると思っています。

とりわけ注力するのが、IT部門と事業側の連携体制の強化です。ITありきではなく、ビジネスや経営の方向性も理解したうえで最適なDXをスピーディーに推進していかなければなりません。この強い組織をつくるため、キャリア採用も強化し、プロパー社員のレベルも引き上げていきます。また、経営陣に対して分かりやすい言葉で説明し、適切な判断を仰ぐことも私たちの重要な役割だと考えています。

セブン&アイHD×PwCが語る流通DXの最前線 未来を拓く「攻めと守り」のデジタル戦略

西村 出 セブン&アイ・ホールディングス 常務執行役員 グループDX本部長、セブン‐イレブン・ジャパン 執行役員 システム本部長、セブン&アイ・ネットメディア 代表取締役社長

セブン&アイHDの未来を担うIT・DX 人財戦略

前島有吾(以下、前島):IT部門には、ITの専門性とともにビジネスや経営の方向性を理解する人財が必要であること、大変よくわかります。一方で、外から入られた、テクノロジーに詳しい方がその方向性を理解し、ビジネス側との相互理解を深めるには、入社後の人財育成の実践やカルチャー変革も必要ではないでしょうか。

西村:おっしゃる通りです。まず育成計画では、IT部門に入社したとしても、店舗研修を含め3カ月ほどの研修をじっくり行います。これは同業他社と比べてもかなり丁寧な取り組みです。また、現場の情報を得られる会議には全システム部員が参加し、現場の課題やニーズを把握することで、帰属意識とビジネス理解を深めています。

カルチャー変革については、理想はビジネス側とIT側が相互にリテラシーを共有し、イーブンな立場で仕事を進めることですが、最初からそれを求めるのは現実的ではありません。そこで私は、IT部門の姿勢として「イネーブラー」であることを大事にしています。要は、現場の立場に立ってIT構築ができるかどうか。現場がやりたいことを実現し成功体験を積むことで、信頼と共感が育まれ、ビジネス側も問題点をしっかり相談して解決しようという、良いスパイラルに入っていけると思うのです。その端緒として、各本部にシステム相談員を配置し、各部の社員(ユーザー)が気軽に相談ができる環境も整えています。

人財の採用時も、「ITだけ」に着目した採用は絶対にしません。現場側との意思疎通を大切にしており、当社の現業である小売ビジネスに対しモチベーションをもってくれるかどうかを重視しています。

前島:人財採用の観点では、西村さんご自身もキャリア入社です。19年にセブン&アイHDに入社され、現在に至るキャリアパスの中にも、成長戦略へのヒントがあるのではないかと推測します。

西村:私は前職で金融や商社系ITに携わり、大企業での調整業務を経験してきました。しかし、セブン&アイHDに出向した際、災害時にお客さまや加盟店オーナー様の立場に立ち、全社員が全力を尽くす姿を見て、「こういう会社で一緒に仕事をしたい」と強く思い、転職しました。ベンダーロックインやレガシーシステムのモダナイゼーションといった課題に全力で取り組めたのは、このセブン‐イレブンという会社のDNAを深く理解できていたからです。同じベクトルを向き、一致団結できる。その強さをIT戦略を通じてさらにスケールしたいと思っています。

:「セブン愛」が施策や人財育成に筋を通していますね。

西村:相性というものもあると思います。前職のBtoBでは問題は会社内で済むことが多かったのですが、うちは店舗システムもアプリも、お客さまや加盟店様にご迷惑がかかるという緊張感があります。リリースのプロセスも丁寧で、ときには「まどろっこしい」と思われることもありますが、そこが難しくもやりがいを感じる部分です。

前島:事業会社であるセブン‐イレブン・ジャパン新社長である阿久津さんとお話しする機会もございましたが、加盟店オーナーさんをはじめ現場の方への想いが非常に強く伝わってきます。IT・DXのミッションを「価値創出」として捉える企業が増えているなか、何が大切かを熟知されている。そこがセブン&アイHDの先進性につながっていると感じます。

セブン&アイHD×PwCが語る流通DXの最前線 未来を拓く「攻めと守り」のデジタル戦略

前島有吾 PwCコンサルティング 執行役員 マネージングディレクター

パートナーシップで描く、グローバルDXの未来像

:パートナーとのアライアンスのあり方について、プロフェッショナルファームやITベンダーに求める要素や期待することはありますか?

西村:非常にあります。かつては限られたベンダーさんにある意味「おんぶに抱っこ」状態が長く続き、それはひとつの成功事例でしたが、今後はよりオープンに多様なパートナーさんにご協力いただき、それぞれの強みを発揮してもらう環境が大事だと考えています。

また今後は、グローバル規模で未知の国やエリアでビジネスをする可能性が高まります。そのため、エリアの特性や会計システム、税制の癖、レギュレーションなどを事前にしっかりヒアリングしたうえで準備をしなければなりません。PwCコンサルティングには、リテールに特化した提案というよりは、インダストリーを問わず、グローバル企業によるAIの活用事例やその際のリスクといったことを教えていただきたいですね。

前島:PwCコンサルティングには日本だけでなく、グローバルで市場調査やさまざまな規制を常にウォッチする専門組織があり、海外のPwCメンバーファームを通じてリアルタイムで最新の情報が取れます。実際に、他の食品メーカーや小売に対する市場参入に向けたサポートも多数実施しており、セブン‐イレブンの新たなグローバル戦略にも必ずお役に立てると思います。

西村:ありがとうございます。「食」がメインの商売なので、地域によって宗教や食べ物の特性、流通のことも、これからもっと蓄積しなければなりません。PwCコンサルティングのような会社から情報や知見を聞いていくことは非常に重要だと考えています。

:生成AIの取り組みについてはどのようなことを期待されますか。

西村:当社では早い段階から生成AIの活用に取り組んでおり、文書作成や事務作業の効率化はもちろん、リサーチや集計・分析もほぼ生成AIで可能になり、企業内のスキルセットが大きく変わってきています。そのなかで、特にセキュリティやリスクの側面については専門的な知見やグローバルな経験が必要になるため、プロフェッショナルファームやITベンダーの助力が必要な部分だと捉えています。

:私たちPwCコンサルティングは、生成AIの良い面を追求しつつ、新たに生まれたリスク対策やガバナンス強化に注目し、早くから取り組んでいます。最近では「AIレッドチーム」と称して、ユーザー側で作成されたAIシステムのリスクとなりうる点を見つけ出すサービスも始めています。このようにAI特有のリスクを第三者の視点であぶり出すことで、安心してAIを業務に取り込むための仕組みづくりを支援しています。

セブン&アイHD×PwCが語る流通DXの最前線 未来を拓く「攻めと守り」のデジタル戦略

林 和洋 PwCコンサルティング 上席執行役員 パートナー

西村:PwCコンサルティングのようなグローバル企業が、社内でどうAIを使っているかという事例にはとても興味がありますし、経営の方々やさまざまな部門での実際の活用方法についてもぜひ知りたいですね。

挑戦を続けることでつかむ、お客さまを笑顔にする種

:最後に、将来に向けてセブン&アイHD、そしてIT・デジタル部門の役割として、どういったところを目指していくのか、改めて展望をお聞かせください。

西村:トップライン・ボトムライン向上に加え、これだけデータが利活用できる環境が整うと、IT・DXを使って世界にアンテナを張り、シーズ(本当に求められている商品やサービス)を先んじてキャッチし、商品本部につなげることが成長戦略の重要課題になると考えます。実際、音楽やエンターテインメントは国境を越え、ムーブメントがグローバル化しています。また、当社は膨大な数の商品を生み出していますが、その商品が本当にヒットするのか、すぐに飽きられるのか、その判断をいかに早くするかも重要で、そこにもITが活用できると考えています。

:そのためには、やはり生成AIの活用も重要になってきますね。

西村:はい。生成AIは社員個人のビジネスパフォーマンスに大きな差を生むと認識しており、AIに「すっと入れる人」とそうでない人の差はすでに広がっています。そこで個人のAI活用のための環境整備と啓発活動を推し進め、検索だけでなく、壁打ちや分析といった活用を促しているところです。

一方で、優秀な人財がもっている構造化されていないノウハウを、いかにデジタル化するかという点にも注力しています。これまでOJTで教わっていたことが、デジタルの力で1万人が同時に知ることができるようになる。このノウハウのデジタル化が、企業のレベルを上げるうえで非常に大切だと考えています。

前島:先ごろPwC Japanグループが実施したグローバル調査によると、主要5カ国の中で日本がいちばんAI活用が遅れているという結果が出ています。ハルシネーションなどの課題によりAI活用にはまだまだ正解はありませんが、活用しないリスクのほうがはるかに大きい。エラー&ラーンを繰り返し、それを経てこそ、知見が血肉となる部分もあると思います。その際、弊社のもつ知見やノウハウも可能な限り共有したいと考えています。

西村:失敗を恐れず、挑戦し続けることで、世界中の誰もが使いやすく笑顔でいられるシステムづくりを目指していきます。ぜひ、一緒に未来を切り拓いていきましょう。

:お話をうかがって、セブン&アイHDのDX戦略における「攻めと守り」がより鮮明になったように思います。PwCコンサルティングとしても、ITや小売の専門性だけでなく、セブン&アイHDのビジネスを深く理解したうえでグローバルとワンチームで貢献していくことが重要だと改めて感じました。自社のAI活用事例や他社の事例をご紹介する際も、単に新しいテクノロジーの押し売りではなく、セブン&アイHDの理念にどう貢献できるかを考え、西村さんともいろいろご相談をしながらご協力できればと思います。本日はありがとうございました。

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西村 出
セブン&アイ・ホールディングス 常務執行役員 グループDX本部長、セブン‐イレブン・ジャパン 執行役員 システム本部長、セブン&アイ・ネットメディア 代表取締役社長。前職では金融や商社系ITに携わり、大企業のシステム統合や経営調整業務を経験。2019年にセブン&アイ・ホールディングスへ入社。入社後はベンダーロックイン状態にあったレガシーシステムのモダナイゼーション、クラウド・AIの活用推進、そしてIT部門の組織強化に尽力。グループ全体のIT・DX 戦略を統括し、コンビニエンスストア事業を技術で支える。

林 和洋
PwCコンサルティング 上席執行役員 パートナー。監査法人系コンサルティング会社やITセキュリティ企業の取締役など、セキュリティ業界で約20年の業務経験をもち、サイバーセキュリティ対策のロードマップ策定、セキュリティオペレーションセンター構築、CSIRT構築など平時のセキュリティ管理態勢整備はもとより、インシデント発生時の第三者委員会支援、フォレンジック調査支援等のサービスを提供している。

前島 有吾
PwCコンサルティング 執行役員 マネージングディレクター。外資系戦略コンサルティングファーム等を経て現職。流通・消費財業界に精通し、20年弱のコンサルティング経験をもつ。中長期成長戦略策定からハンズオンでの変革支援までをワンストップで手がけるエキスパート。

Promoted by PwCコンサルティング合同会社text by Sei Igarashiphotographs by Shuji Gotoedited by Akio Takashiro

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PwC コンサルティングはプロフェッショナルサービスファームとして、日本の未来を担いグローバルに活躍する企業と強固な信頼関係のもとで併走し、そのビジョンを共に描いている。本連載では、同社のプロフェッショナルが、未来創造に向けたイノベーションを進める企業のキーマンと対談し、それぞれの使命と存在意義について、そして望むべき未来とビジョンついて語り合う。