AIは、あなたのチームが1件の文書を開く間に数百万件の文書を処理できる。数秒でメモを作成し、コードの下書きを行い、戦略を練り直す。
AIが意思決定のあり方を大きく変えるにつれて、リーダーシップが注力すべき本質は、人間が最も得意とすることを増幅させる方向へと移りつつある。
その強みとは好奇心だ。好奇心とは、欠けているものに気づき、前提を疑い、急いで決断する方が簡単に思える時でも曖昧さを探究するという、規律ある実践だ。
AIが見落とすもの
AIはパターンを認識し、すでに存在するデータに基づいて予測を行う。しかし、なぜそれが重要なのかを理解することはできない。場の空気を読むこともできず、私たちが正しい問題を解いているのか、それとも単に作業を速くこなしているだけなのかを問うこともない。
好奇心はこのギャップを埋める。見過ごされがちな点をつなぎ合わせ、焦点を緊急性から重要性へと移す。環境が急速に変化するとき、このシフトは決定的だ。最も大きなリスクは間違った選択をすることではない。間違った方向に完璧に進んで行くことだ。
好奇心は判断力を研ぎ澄まし、異議の捉え方を変える。リーダーを強制者ではなくコーチのような存在にする。それは実践を通じて強化される働き方であり、AIが他のあらゆる能力を高めるほど、ますます価値が高まる。
好奇心旺盛なチームの働き方
好奇心旺盛なチームは、断定する前に検証する。言葉にされない兆候に耳を澄ます。進むべき道を常に把握しているからではなく、前進し続けるから弾力的だ。
サティア・ナデラがマイクロソフトの舵取りを任されたとき、マイクロソフトは自分たちは常に正しいという確信を持っていた。だが彼はチームに、いわゆる「何でも知っている人(know-it-all)」から「学び続ける人(learn-it-all)」へと姿勢を転換するよう求めた。これは単なるブランドの変更ではなかった。OpenAIとの130億ドル(約1兆9100億円)規模のパートナーシップへの道を切り開き、2025年半ばには同社の時価総額を3兆7400億ドル(約551兆円)にまで押し上げた。
アマゾンではジェフ・ベゾスが「『1日目』の考え方」を掲げ、好奇心を保ちながら素早く動き、長期的な賭けに集中することを軸とした。この姿勢により、同社は30年を経ても数十億ドル(数千億円)規模の新規事業を次々と立ち上げ続け、2024年の売上高は6380億ドル(約94兆円)に達した。
2020年の国際的な危機の最中、ファイザーは「なぜ今年ではいけないのか」と問い直した。プロジェクト・ライトスピード(Project Light Speed)は通常の開発スケジュールを破り捨て、他社が見落としていたmRNAアプローチ(新型コロナウイルスが細胞に感染するときの足がかりとなるスパイクたんぱく質を作るための遺伝情報を含む物質「mRNA」を投与する仕組み)を試し、わずか9か月で承認された新型コロナウイルスワクチンを提供して、それまでの最短記録である4年を塗り替えた。
これらの成功は好奇心の力を示しているが、多くの組織はその維持に苦労している。



