アジア

2025.08.20 09:00

中国経済の減速でトランプの「ビッグディール」期待もしぼむ

amagnawa1092 / Shutterstock.com

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中国経済が勢いを失いつつあるなかで、ドナルド・トランプ米大統領が過去10年、最も一貫して掲げてきた経済目標に向けた進展も停滞するかもしれない。米中間の貿易構造を根本的に変えるという目標だ。

この野望はここ数週間、試練にさらされている。しかもそれは、中国の習近平国家主席がトランプの夢見る「グランドバーゲン(大きな取引)」につれない態度をとっていることだけが理由ではない。トランプと習による盛大な署名式の現実味がここへきてさらに薄れている理由は2つある。

第一に、トランプが先ごろ日本や欧州連合(EU)などとの関税交渉で達した「合意」をめぐって、ひどい混乱ぶりが露呈していることだ。日本に対する関税率は15%となったものの、日米の当局間でこの税率の適用方法をめぐって認識に食い違いが生じ、経済に波紋を広げている。

日本が約束した5500億ドル(約81兆円)の対米投資、トランプに言わせれば「契約金」の内実は混乱の極みだ。EUの場合も同様であり、トランプがEUに期待する7500億ドル(約110兆円)というマンガめいた巨額の米国産天然ガス・石油の購入は果たしてどのように実行されるのか、あるいは実行できるのか不透明だ。もし読者が習の立場だったら、こうした混乱が待ち受けているのであれば、互いに関税の適用を停止する期間の「90日間延長」をできるだけ多く重ねていきたいと思うだろう。

第二に、中国経済に減速の兆しがみられ、習率いる中国共産党政権が経済戦略に大きな変更を加える見込みが薄くなっていることだ。

トランプは現時点で、派手な記者会見を開いて「勝利」を宣言できれば良しという考えなのかもしれない。「トランプワールド」の最も現実離れした人でさえ、習にはたいした譲歩をする気がないこと、また中国側が嬉々として状況を長引かせていることに気づいているはずだ。

トランプは中国とのディール(取引)を中国側以上に必要としており、習にはそれがわかっている。トランプがみずからの支持基盤に、物価の上昇や確定拠出年金(401k)の変動、雇用機会の減少は耐えるに値すると納得させる唯一の方法は、「手強い悪者」としての中国を屈服させることだ。習はその焦りを利用して、実際にはたいした変化を伴わない見せかけのディールを引き出すことができる。これはまさに日本がやったことだ。

言い換えると、仮にトランプが中国との間でほかの主要国・地域と同じ15%の関税で合意したとしても、「中国株式会社」はトランプ2.0時代が始まる前の2024年とほぼ同じように経済活動を続けることになるだろう。

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翻訳・編集=江戸伸禎

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