これは中国にとって短期的には「勝利」と呼べるかもしれないが、必ずしも最善の結果ではない。こう言うのは別にトランプによる貿易戦争の戦略を支持するわけではなく、むしろその逆だ。しかし、2025年の中国を見ると、大々的な変革を掲げながら実現したものが少ない習政権のツケを払わされているという現状がある。習指導部が発足した2012年以来、大胆な改革がいくどとなく語られてきたものの、習が実際にやってきたことはと言えば、中国経済のひび割れを政府の景気刺激策を覆い隠すことの繰り返しだった。
政府が抜本的な経済改革を怠ってきた結果、中国では大規模な国有企業群が依然として国内経済で幅を利かせている。巨大な不動産危機はますます悪化し、国と地方政府の債務は相変わらず重くのしかかっている。若年層の失業率も引き続き高く、安心できる水準ではない。習がデフレに打ち勝つために、家計に貯蓄を減らして支出を増やしてもらうことに苦戦しているのも同じ理由からだ。
中国経済は7月、小売売上高、製造業活動、投資などが明らかに貿易戦争の打撃を受け、全面的に減速した。年初に力強いスタートをきった中国経済は、下半期にはあらゆる方面から逆風が強まり、不確実性が非常に高い状況に入っている。
外部から中国にもたらされている関税の痛みは、過剰生産能力の削減や過度な価格競争の抑制に向けた習の国内での取り組みと衝突している。習のチームはこの取り組みを「反内巻」(編集注:「内巻」は内部での過剰な競争で全員が消耗してしまうといった意味合い)と呼んでいる。
BNPパリバ・アセットマネジメントのシニアマーケットストラテジスト、チー・ローは反内巻キャンペーンについて「生産能力を削減し、無秩序な価格競争を抑制するための措置や規制に重点を置いている」と説明したうえで、「これらの政策はむしろ雇用や経済全般を損ない、価格決定力や収益性へのプラスの効果を帳消しにし、自滅的な結果になりかねない」と警鐘を鳴らしている。
習は現行のトランプ関税が導入される前の2024年時点で、5%の経済成長がありながら、中国経済のエンジンを輸出から内需に切り替えることに十分な自信を持てていなかった。だというのにどうして、2008年のリーマン・ショック以来最も不確実性が高い現在の状況で、彼がそれに踏み切ると考えられるだろうか。逆説的だが、トランプが執着してきたよりダイナミックな米中貿易関係は、自身による2025年の貿易戦争が最大の原因で実現が遠のいているのかもしれない。


