既製品活用でコストと信頼性を両立した堅実な設計
Grid Aero試作機のリフター・ライトは、最終製品の90%の大きさで、フェデックスが小都市向けに運航している全長約51フィート(約15.5メートル)のセスナ・キャラバン・スカイ・クーリエとほぼ同じサイズだ。この機体が長距離飛行を実現できる理由は、その動力にある。多くのスタートアップが開発する電動航空機などとは一線を画し、あえて従来型の航空燃料を選択したのだ。「飛行性能が保証された方式を採用した」とデュボアが説明するこの機体は、シンプルな固定翼のデザインで、コストを抑えるために複合材を使わず、既製の部品とアルミ製の外板を使っている。
Grid Aero競合のXwingは2024年、セスナ社の小型輸送機キャラバンを自律飛行型に改造した空軍の演習を成功させていた。しかし、デュボアによれば、その際に将校たちは「中途半端な解決策」と受け止めていた。彼らにとってXwingの機体は素晴らしいものだったが、「価格が高く、何百機も導入できない」「航続距離も積載量も不十分だ」という課題があった。
こうした背景を踏まえ、デュボアは同年、新しい構想を3人の共同創業者と描き始めた。集まったのは、ボーイング傘下「Wisk」出身のチンマイ・パテル、元空軍テストパイロットのアレックス・クロール、そして防衛大手ノースロップ・グラマンで10年の経験を持つブランドン・フロリアンという、各分野の専門家だ。
広大な太平洋で、米軍の新戦略を支える生命線としての役割
米軍は現在、太平洋でハワイやグアム、日本、韓国に大規模な基地を置いているが、それらはいずれも将来の戦争が想定される場所から離れている。台湾に最も近い米軍の拠点は沖縄南部の嘉手納基地で、台湾から約370マイル(約595キロ)の場所にある。また、グアムは台湾から約2000マイル(約3219キロ)離れている。
一方、中国はこうした米軍基地を標的にし、補給線を脆弱にするために長距離ミサイルを大量に配備してきた。「我々の敵は、我々が行きたい場所を知っており、それを妨害するためのシステムを設計している」と、元空軍少将で米軍の輸送作戦の上級司令官を務めた経験を持つローレンス・マーティンは述べている。彼は現在、Grid Aeroのアドバイザーを務めている。
国防総省は、中国から狙われにくくするため、米軍の部隊を複数の遠隔地の拠点から素早く展開させる仕組みを整えている。空軍は太平洋奥部の第二次世界大戦時代の基地を再整備し、簡易な滑走路からの離着陸訓練を行っている。海兵隊もまた、小規模な島に遠征部隊を送り込み、ミサイル発射機を設置して中国の艦艇を脅かす取り組みを進めている。
デュボアと彼の14人のチームは、こうした作戦の命綱となることを狙ってリフター・ライトを開発した。
あらゆる環境に対応する高い運用能力と完全自律飛行
この機体は、草地や砂浜でも対応できる頑丈な着陸装置を備えており、小規模な空港の滑走路の3分の1以下にあたる約1500フィート(約457メートル)未満の距離で離陸可能な設計となっている。また、リフター・ライトは遠隔のオペレーターによって操縦され、飛行経路の修正や離着陸が可能だが、Grid Aeroは、この機体を通信の途絶や妨害電波にも強い完全自律飛行型に仕上げようとしている。同社はまた、この機体に周囲を撮影してランドマーク認識で位置同定するためのカメラや、障害物や他機を回避するための機能を搭載しようとしている。


