大人も、前頭前野システムがうまく働かないと、衝動的で無秩序な考えにとらわれることがある。
アルコールは前頭前野の機能を低下させるため、泥酔した大人は自分を抑えられない。
感情制御は、「アンガーマネジメント」──怒りが爆発しそうな時に、頭を冷やすこと──のカギも握る。
前頭前野システムが時間をかけて成熟することには、絶え間なく変化する社会規範や規則、文化に順応しながら、行動を少しずつ変えていけるというメリットがある。
神経科学者のサラ=ジェイン・ブレイクモアによれば、私たちは前頭前野システムを発達・拡張させ、大人として行動するために必要な制御ネットワークを構築しながら、「自分をつくりかえていく」という。
成熟した大人は、前頭前野システムの働きによって感情や行動をコントロールする。このシステムは年齢とともに、計画や推論、また無関係な思考や侵入思考〔考えたくもないのに考えてしまうこと〕の抑制を担う、脳の「実行機能」を司るようになる。
安定的で一貫した規則正しい幼児期を過ごす子どもは、周りの状況のパターンに気づき、それを読み取り、状況への対処方法を先読みすることができる。成熟中の脳は状況に応じた行動を取り、「自分がこうしたら、相手はこうするはずだ」というパターンを学んでいく。
心の理論が支えるこの予測能力があるからこそ、私たちはこの複雑な世界をわたっていけるのだ。
私は「あなたにこうだと思われている」と思っている人間だ
幸せと関係のある自己意識にはもう1つ、「人にどう見られているか」を気にする自己意識がある。
私たちの人となりは、人がどう思うかにも影響される。自分はユーモアがあると自負していても、誰も笑ってくれなかったら、「本当にユーモアがあるのだろうか?」と疑うだろう。
私たちは周囲の反応を見て、自分がどんな人間かを理解し、それをもとに自己を形成していく。
社会学者のチャールズ・クーリーは、これを「鏡に映った自己」と呼んだ。


