米ロサンゼルスにあるApex Technology(エイペックス・テクノロジー)の新しい明るい工場のモニターは、地球を90分ごとに周回する同社初の人工衛星のデータと位置情報を映し出している。
Apex共同創業者兼CEOのイアン・シナモン(33)は、人工衛星の製造が困難で高コストになる理由を次のように説明する。それは、強烈な太陽光にさらされたかと思えば、次の瞬間には夜の冷気に包まれるという、急激な温度変化によるストレスだ。「想像してみてほしい。5年間も壊れずに動き続けなければならないスマホを作ることを。しかもその端末は、45分ごとにオーブンと冷凍庫を行ったり来たりするような過酷な環境にさらされるんだ」と、シナモンは早口で歯を見せた笑顔で語った。
シナモンの飼い犬である茶と白のハバニーズにちなんで「アリーズ」と名付けたその人工衛星は、開発開始からわずか12カ月足らずで打ち上げられた。Apexは、この打ち上げまでのスピードを「量産を前提とした小型人工衛星としては史上最短だ」と主張し、「人工衛星の製造分野にフォード式の大量生産を持ち込む」という目標の達成に向けた、最初の一歩だとしている。
透明なビニールカーテンで仕切られたクリーンルームでは、モニターの奥でヘアネット姿の技術者たちが台車に載せられた別の「アリーズ」を組み立てている。その人工衛星は、6つの作業ステーションのひとつに設置されていた。
シナモンは、この生産スタイルこそが人工衛星産業の未来だと確信している。従来の工場が一度に1基ずつしか宇宙船を製造できなかったのに対し、彼と共同創業者兼CTOのマックス・ベナッシ(スペースXの元主任エンジニア)は、この工場で月産十数基を目指す計画だ。
脱・特注品、人工衛星も「カタログから選ぶ」時代へ
人工衛星の製造は、長らくオーダーメイドが常識で、従来の宇宙船は地球観測やテレビ信号の送信といった任務に合わせてカスタマイズされ、その結果として高コストや納期の遅延が避けられなかった。
Apexは、こうした状況を変えるために、顧客がセンサーやペイロードを追加するだけでさまざまな用途に使える、「バス」と呼ばれる電源や制御システムを組み込んだ3種類の人工衛星本体を提供している。この仕組みであれば、トランプ大統領が「ゴールデンドーム」構想で提唱する、大陸間弾道ミサイルを撃ち落とすための兵器でさえ搭載可能だ。
Apexは、自動車メーカーと同じように、人工衛星に「グレード」を用意して、より大きな電力供給や高性能の通信システム、電気推進か化学推進かなどを選べるようにしているが、それ以外は一切手を加えない。
「この条件で欲しいなら買えばいいし、嫌ならやめればいい」とシナモンは述べている。
彼は、小型衛星の複雑さを減らすことで、防衛請負業者や通信会社といった顧客からの支持を高めていけると考えており、ベナッシと共に大きな成長の余地を見ている。2022年にApexを立ち上げる前、2人はこうした潜在顧客たちの意見を聞いて、納期の遅延やコストの膨張、品質の低さに対して不満が渦巻いていることを知ったという。「我々は、顧客から嫌われない初の人工衛星の量産メーカーになりたい。それこそが差別化要因だ」とシナモンはフォーブスに語った。
Apexの基本構想には合理性があると、宇宙コンサルティング会社Quilty Analyticsの調査ディレクター、ケイレブ・ヘンリーは指摘する。人工衛星事業者は標準化された宇宙船を買う利点を以前から認識してきたが、それでも高額なカスタム仕様を求める欲求は根強い。「結局のところ、彼らは自分で自分の首を絞めてしまう」とヘンリーは語った。



