しかもパディのオーダーは、かなりこだわりが強いという。例えば、世界各地の石を集めてレンガのように積み重ねて作った壁のように見えるシーン・スキャリー作の「キューブ状の光の壁」は、理想の色と形の石を求め、作家とともにあちこちへ飛び回り完成させたアーティストとの共同作品とも言える。
筆者の印象に残っているのは、オノ・ヨーコの「ウィッシュ・ツリーズ」だ。日本の七夕が着想の元なのだろう。訪れた人がそれぞれに紙片に願いごとを書き、木に吊るす。一定期間が過ぎると、それらの「短冊」は回収され、アイスランドのライブラリーに保存されるのだという。願いごとを書くだけでなく、人々の夢や希望、願いを貯めておくライブラリーをつくるまでがプロジェクトなのだ。
世界で日々起きている悲劇と、それに伴う悲しみ、絶望に満ちている地球。それに対抗する、小さな希望のユートピアをつくり、ポジティブな願いのエネルギーを集約させて発信する、革命のようにも感じられた。

そのほか、パリのアートギャラリーと協働し、若手アーティストが数週間おきにポップアップを行うギャラリーなど、常に新しいものが生まれるエネルギーが人を惹きつける。
ちなみに、敷地内にはワイナリーがあるが、その建物も、ジャン・ヌーヴェルの「キュヴェリエ(発酵槽)」という作品だ。アートとワインづくり。双方を組み合わせてシナジーを生み出すだけでなく「ワイン作りは一つのアートであり、できたワイン、それを楽しむ時間そのものも、アートの文脈で捉えられる」というメッセージにも思える。
自然のなかで、既成概念にとらわれず新しいものを生み出すアーティストたちの発想に触れる。ここで過ごすことは、人間の根源を見つめ直し、エネルギーをリチャージするような感覚を覚えさせる。パディが作っているのは「アートを集めたホテル」ではなく、心と体を癒し、革新的発想を生み出す「パワースポット」なのかもしれない。


