北米

2025.08.23 08:00

「AIデータセンター」がカリフォルニア州の高速鉄道計画を救う可能性

カリフォルニア州フレズノ・高速鉄道の建設工事が行われている(Robert Gauthier/Los Angeles Times via Getty Images)

カリフォルニア州フレズノ・高速鉄道の建設工事が行われている(Robert Gauthier/Los Angeles Times via Getty Images)

トランプ政権は、カリフォルニア州の高速鉄道プロジェクトに対する連邦政府の補助金40億ドル(約5880億円。1ドル=147円換算)の支援を撤回し、この鉄道を大統領が揶揄してきた通りの「どこにも行かない列車」にしようとしている。同州のギャビン・ニューサム知事は支援の撤回に異議を唱える訴訟に踏み切ったが、この鉄道プロジェクトの新CEOは救済策として、大胆な構想を掲げている。それは、長期的な資金調達、民間との提携、そしてカリフォルニアで急成長している人工知能(AI)向けのデータセンターの活用だ。

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昨年9月に高速鉄道のCEOに就任したイアン・チャウドリは、それまでの数十年間をベクテル、アルストム、パーソンズといった大手エンジニアリング企業で世界規模の巨大インフラ事業に携わってきた人物だ。彼は今、懐疑的な人々を説得しようと動いている。長年停滞してきたサンフランシスコ~ロサンゼルス間の高速鉄道は、連邦政府の支援なしでも実現可能だというのが彼の主張だ。しかも、総事業費はこれまで目されていた1280億ドル(約19兆円)を下回るという。

鉄道から生まれる新たな収益源

「この鉄道が収益を生み、納税者の負担を軽減できることを示したい」とチャウドリはフォーブスに語った。チャウドリは収益化の計画を描いているが、具体的な数字はまだ示していない。計画の柱は、将来的な運賃収入だけではない。鉄道用地にテック企業のデータセンターを誘致し、その電力は列車の動力源でもある太陽光発電でまかなうという。鉄道ルート沿いで通信会社へ光ファイバー敷設の権利を売却することや、土地価格の安いセントラルバレーで不動産開発を進めることから収益を上げる構想もある。

「シリコンバレーの投資家からは、フレズノにデータセンターを建てて、高速鉄道プロジェクトが整備する再生可能エネルギーの電力網に接続できないかという提案が来ている。こうした収益源を組み合わせれば、ざっと見積もって運賃収入の30~40%に匹敵する規模になるだろう」とチャウドリは語る。

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チャウドリは間もなく、改訂版の計画を提出する予定だ。まずは、2033年までにカリフォルニア州セントラルバレーを通る約191キロの区間を完成させ、その後は2039年までに北はサンフランシスコとサンノゼ、南は南カリフォルニアのパームデールまで延伸し、ロサンゼルスまでつなげる構想を描いている。彼の計画の焦点は、建設を段階的に進めてできるだけ早く収益を生み出し、政府資金への依存を下げることにある。

「建設可能な区間から着工し、まずは運行を開始する。そして鉄道で結ばれる町や都市の経済を大きく変え、沿線の資産を収益化することで価値を高める。この取り組みであれば、連邦政府や州からの継続的な資金投入を求める必要を減らせる。なぜなら、このシステムが動き出せば、あらゆる人にとって鉄道の周囲に機会が開かれるからだ」とチャウドリは、サクラメントのカリフォルニア州議会議事堂を見渡す会議室で語った。

チャウドリの計画は、政府や州への依存を減らすという点で、従来の方針から大きく転換した。とはいえ、実現には重要な立法措置が欠かせない。その1つが、ニューサム知事が5月に提案した長期資金計画だ。2045年まで毎年10億ドル(約1470億円)、総額200億ドル(約2.9兆円)を追加投入する。これには、高速鉄道当局の建設許可の迅速化、道路・電力網などインフラ移設を円滑にする法案も含まれる。

この許認可法案を起草したサンフランシスコ選出の州上院議員スコット・ウィーナーによると、この資金計画が9月12日に終わる現会期で承認されるかどうかは不透明だという。それでも彼は、プロジェクトへの支持は高まりつつあると考えている。

「人々は、期限内に確実にプロジェクトを完成させるための堅実な計画を求めている。そして、より効率的かつ迅速に事業を進めるため新しい発想や柔軟なアプローチを期待している」とウィーナーは語った。

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編集=上田裕資

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