長期資金計画が民間投資を呼び込む鍵
40億ドル(約5880億円)の連邦政府の資金を失うことは大きな打撃となる。これは、これまでに集めた280億ドル(約4.1兆円)のうちの14%にあたり、残りは州の資金と過去に獲得した30億ドル(約4410億円)の連邦補助金で賄われてきたからだ。そこでニューサム知事は、プロジェクトを安定させるため、200億ドル(約2.9兆円)規模の新たな計画を打ち出した。財源とするのは「キャップアンドトレード制度」だ。これは温室効果ガスの排出量に上限を設け、枠を超えた企業に市場での排出枠購入を義務付ける仕組みである。この計画が承認されれば、チャウドリの構想を実現できるだけでなく、ベクテル、メリディアム、プレナリーといった企業を含む民間インフラ事業者が資金調達や建設に参加する道を開くことになる。
「これまで民間投資家、プライベートエクイティ、民間の鉄道運営会社は、カリフォルニア州のプロジェクトに関わろうとしなかった。なぜなら、州が長期的な資金を確約しているのかどうか、はっきりしなかったからだ」と語るのは、米国とカナダで交通インフラや橋梁事業を手がけるプレナリーの事業開発責任者、シア・クーシャだ。
彼によると、民間の開発コミュニティにおいては、州が20年の資金計画を承認する可能性こそが、新たな熱気を生み出している最大の要因になっている。
過去の失敗を乗り越え現実的な計画へ
州の長期資金計画が承認され、安定した資金の流れが確保されれば、チャウドリは将来の収益を担保に借り入れを行い、建設のスピードを加速できる。高速鉄道当局は過去10年間、築堤、橋、トンネル、立体交差といった基盤工事を進めてきたが(フレズノで最近完成した跨線橋もその1つ)、すでにレール敷設に必要な鋼材などの資材の発注を始めている。
チャウドリは、外部から見て苛立たしく感じていた過去の問題を率直に認めている。「この計画は、法律で過度に細かく縛られていた。2008年時点で『この駅からあの駅まで何分以内』といった所要時間まで規定されていたが、その時点ではルートすら確定していなかったのだ」と彼は振り返る。詳細な計画が存在しなかったため、当初のコストやサービスの見積もりは事実上意味をなさなかったのだ。
「これは、馬の前に荷車を10台も並べておいて、なぜ動かないのかと嘆くようなものだ。問題は、他国では当たり前の仕組みが、最初から欠落していたことにある」。
日本の新幹線や、中国・欧州などの高速鉄道はどのように進められてきたか。まず都市と都市を結ぶ区間ごとの計画を積み上げ、国の全面的な支援のもとで拡張するのが世界の定石だ。それに対しカリフォルニアでは、詳細な計画やルート決定を待たずにシステム全体のコストを試算してしまった。この順序の逆転こそが誤りだったと、チャウドリは考えている。
「だから私は民間を離れたのだ」とチャウドリは言う。2012年以来、このプログラムを見てきたという彼は、「頭がおかしくなりそうだった」と振り返る。そして昨年、この仕事を引き受ける決意をしたときに彼は、「よし、これを立て直さなければならない。失敗は許されない」と考えたという。


