北米

2025.08.23 08:00

「AIデータセンター」がカリフォルニア州の高速鉄道計画を救う可能性

カリフォルニア州フレズノ・高速鉄道の建設工事が行われている(Robert Gauthier/Los Angeles Times via Getty Images)

巨額のコスト超過、見通しの甘さが招いた計画の迷走

トランプは5月、かねてから批判されてきた高速鉄道について「予算を30倍や40倍も超過している」「こんなひどいコスト超過は見たことがない。完全に制御不能だ」と非難した。

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しかし、サンフランシスコとロサンゼルスを時速320キロ以上で結ぶ高速鉄道計画の総事業費は確かに膨れあがってはいるものの、トランプの主張ほどではない。2008年に州が100億ドル(約1.5兆円)の州債を承認した時点の見積もりは450億ドル(約6.6兆円。当初は330億ドル[約4.8兆円]とされていた)だったが、その後、金額は3倍に膨らみ、2024年の事業計画では最大1280億ドル(約18.8兆円)に達している。

今から17年前の2008年に州の有権者がこの計画を承認したのは、大きな賭けだった。なぜなら当時、この計画を支援したアーノルド・シュワルツェネッガー元知事を含め、誰もその難しさを正確には理解していなかったからだ。2008年時点では、ルートも、土地も、用地の取得も定まっておらず、計画はカリフォルニア特有の厳しい環境影響審査を経なければならなかった。送電線や水道管といったインフラの移設に関しては、土地収用権が限定的で対応が難しかった。加えて、数千にのぼる土地の取得交渉は、繰り返し持ち込まれる裁判に阻まれ、高コストで極めて骨の折れる作業となった。

また初期の頃、このプロジェクトは巨大事業の専門家を直接雇うのではなく、外部コンサルタントに大きく依存していた。しかし現在、チャウドリはチームを鉄道、インフラ分野のベテランで固めている。例えば、建設部長にはフロリダの高速鉄道「ブライトライン」を手がけたエドワード・フェンを起用。計画・エンジニアリング担当責任者には、UAEのエティハド高速鉄道などで実績を持つスンシク・リーを迎えた。

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そしてこのプロジェクトは、初期の混乱にもかかわらず着実に進展している。その進捗は、トランプやショーン・ダフィー運輸長官が指摘する以上だ。これまでに約2300区画の土地を確保し、環境認可も大半が完了。現在はフレズノとベーカーズフィールドを結ぶ約191キロの区間で建設が進み、1万5000人以上が従事している。さらにマーセド、ギルロイ、パームデールへの延伸準備も進み、既存鉄道網との接続も視野に入っている。

地域経済の起爆剤となる高速鉄道

「苦しい時期は乗り越えた。これを必ず実現したい」とニューサム知事は5月、今年度の予算に高速鉄道向けとして約8億ドル(約1176億円)を盛り込んだ法案に署名した後、意気込みを語っていた。

2040年代の完成が見込まれるこの高速鉄道は、最終的に約795キロを結び、北はサンフランシスコから、南カリフォルニアのロサンゼルスとアナハイムまでを走ることになる。その第1歩は、セントラルバレーのフレズノとベーカーズフィールドを結ぶ約191キロの区間を完成させることだ。そこから、フレズノから北へマーセドに延伸してアムトラックのサクラメント行き路線と接続し、西北へギルロイに向けて延ばして、サンノゼやサンフランシスコに通じる通勤鉄道カルトレインとつなげる計画もある。

一方、ベーカーズフィールドからの路線に関してチャウドリは、南へ延伸し、ロサンゼルスやオレンジ郡まで伸びる通勤鉄道メトロリンクの拠点である、高地砂漠のパームデールまで結ぶ計画を立てている。ビリオネアのウェス・エデンズが進めるラスベガス発ロサンゼルス郊外行きの高速鉄道「ブライトライン・ウェスト」も、ロサンゼルス郡の交通局が主に資金を拠出する計画区間を経てパームデールに接続する可能性がある。チャウドリは、これらの延伸が2039年までに整えば、その後南への建設が進む過程でも、この鉄道システム全体の実用性が飛躍的に高まると見込んでいる。

この計画の批判者たちは、もしサンフランシスコとロサンゼルスを結ぶ州間高速道路5号線に沿って建設していれば、より安く早く完成できたはずだと主張してきた(ブライトライン・ウェストは、ラスベガスからロサンゼルス郊外までの約350キロを州間高速道路15号線に沿って建設中で、2028年には開業の可能性がある)。しかし、この案は早い段階で却下された。理由は単純で、州の内陸部の都市が取り残されてしまうからだ。

「高速鉄道はフレズノとセントラルバレーの人々の暮らしを根本的に変えるものになるだろう」とフレズノ市のジェリー・ダイアー市長はフォーブスに語った。「この地域は農業が中心で、それに付随する商業や雇用に大きく依存している。州間高速道路5号線が建設された何十年も前、州政府は、意図的に北カリフォルニアと南カリフォルニアを直結させ、セントラルバレーをカリフォルニア経済の主流から外してしまった」。

ダイアー市長は、住宅価格の中央値がサンフランシスコやロサンゼルスの3分の1以下とされるフレズノと、州の主要な経済圏を結ぶ鉄道がもたらす変化に確信を持っている。「シリコンバレーで働く人々がフレズノに住み、通勤できるようになるだろう。それはこの街にとって非常にエキサイティングだ。地域経済を大きく変えることになる」と同市長は語った。

チャウドリによれば、サンノゼとフレズノの通勤時間は将来的にわずか45分にまで短縮される可能性があるという。

一方、連邦政府が補助金の返還を求める中で、ショーン・ダフィー運輸長官は先月の寄稿で、この事業を「途方もない無駄金だ」と痛烈に批判した。しかし、ニューサム知事の事務所は強く反論し、州中央部の共和党支持者が多い地域にも大きな利益をもたらす計画だと訴えた。

「ダフィー長官は相変わらずこれを『どこにも行かない列車』と呼び続けている。だがそれはセントラルバレーに対する新たな侮辱だ。我々は、トランプ政権とは違い、セントラルバレーを見捨てるつもりはない」と知事報道官のダニエル・ビジャセニョールは述べた。

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編集=上田裕資

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