ラグジュリーを考えるには部分をみるのではなく、全体を見渡すべきと時々に語ってきました。職人の手による細かく丁寧な仕事を賞賛するだけでは不十分です。その生産を巡る経済・社会・文化環境から商品を使うシーンに至るまでを視界に入れないといけません。
本連載のタイトル「ポストラグジュリー360度の風景」はラグジュリー動向を多角的にみるという意図もありますが、そもそも一つの表情しか見せないものをラグジュリーとは認知しづらいのです。
昨秋、本連載とは別に『部分でなく全体を見る。ランゲで知るイタリア「デザイン文化」』という記事を書きました。英語のテリトリーは一般に行政区分に基づく地域を示します。他方、イタリア語のテリトーリオは都市と農村の関係、自然、文化、社会のアイデンティを包括する空間を指しています。即ち、テリトーリオは全体を実感する空間です。
そこで、昨年、イタリア・ピエモンテ州のランゲ地方というテリトーリオで研修を企画・実施しました。その実験版の経験に基づいて今年5月末、本格版をスタートさせました。ランゲでの経験を2日間半、その後、ミラノで美術館やデザインレクチャーを2日間。システムデザインを専門とする渡辺今日子さんが共同創業者のknots associates inc.、ぼくとミラノ工科大学でデザインを教えるアレッサンドロ・ビアモンティさんで運営するDe-Tales ltd.の2社共同企画です。
日本から10人近い方が参加され、最初の日に参加者に課題を出しました。
「テリトーリオは新しいラグジュアリー、あるいは高い質を得るにどう貢献するか?」
この観点で、こちらが設定したランゲの訪問先を巡るようにお願いしました。食科学大学、イノベーションハブ、白トリュフ博物館、建材メーカー、観光局、ランドスケープデザイナー、ワイナリー、それぞれの場で話しを聞きます。人によってどの訪問先が印象的だったかは異なります。しかし、共通して感銘を受けたというコメントが多かったのは、白トリュフ博物館の見学とその後の白トリュフフェアの会長をつとめるアクセル・イベルティさんとの対話です。



