海野はあとがきでこう述べています。「面白く読むためには、当時の文学を過去のものとして文学史的に読むのではなく、その時代の中で、現在として読んでいかなければならない」。これは読書を通した時代の横断だけではなく、どんな分断においても「見えないつながり」を捉えるための大きなヒントではないでしょうか。
スーパーで出会った老人、一冊の本がつなげてくれた作家たちとの交流で得た温かい感覚を「条件」と呼ぶには、どうまとめるべきか。
頭を抱えながら、以前、安西さんに紹介してもらい感銘を受けた『シアスター・ゲイツ展:アフロ民藝』のカタログを手に取りました。アメリカの公民権運動の一翼を担ったスローガン「ブラック・イズ・ビューティフル」と日本の「民藝運動」の哲学の両方に影響を受けたゲイツが掲げた序文に「これかもしれない」と思った一節を見つけました。
「本展はブラック・アートに特化した展覧会ではありませんし、民藝品を再生産しようという試みでもありません。アフロ民藝は融合とも衝突とも異なります。むしろ、ものづくりと友情を通じて、人が文化の持つ影響力の可能性に身をゆだねたときに何が起こるかを示すものだと言えます」
異なる時代、文化、思想を超えて人々と交流し、高い質を循環させる新しいラグジュアリーの風景には「友情」を条件にいれなくてはならない。それに尽きるのかもしれない。そう思い始めたところです。


