白トリュフは黒トリュフと異なり人工栽培ができません。秋の限られた時期に解禁され、訓練された犬と森の中を探し歩き、採集をします。とても自然に近くミステリアスなプロセスを思わせ、イベルティさんは「価格で比較すると、白トリュフは黒トリュフの20倍近い」と説明します。
しかし、昔から高価だったわけではありません。1930年頃まではハンターが安く売り歩いていました。のちに、ランゲ出身のジャコモ・モッラが白トリュフの販促のためのイベントをはじめます。モッラは料理人からレストランからホテルの経営へと転じた実業家ですが、ツーリズムを焦点においた彼が注目したのが白トリュフだったのです。
モッラは戦略のひとつとして、今でいう「インフルエンサー攻略」を行いました。有名人にその年の一番大きな白トリュフを贈るのです。過去のリストにはマリリン・モンロー、ウィンストン・チャーチル、アルフレッド・ヒッチコック、アイク・アイゼンハワー、ソフィア・ローレンと並びます。1951年、ハリー・S・トルーマン米国大統領に2.5kgを超えるトリュフをプレゼントしたことが世界的なニュースとなり、“アルバの白トリュフ”の名声がゆるぎないものになります。
モッラは美食とツーリズムを一体化させるシステムをつくり、現在の「ランゲは食文化のメッカ」とのブランドの礎をつくったのです。ここで興味深いのは、経済的効果もさることながら、子どもから大人に至るまで、白トリュフが地域の人々のアイデンティティに関与する点です。森林が荒れれば白トリュフの収穫は減ります。このリアリティがランゲの人たちがテリトーリオをより全体的にしかも繊細に捉えるよう促しています。
下記は、JTで新しい事業の開発を担当する廣瀬理子さんが書いてくれた報告文の一部ですが、見事にランゲの全体像を捉えています。
「新しいラグジュアリーとは何か、これまで以上に深いところで掴めた旅だった。そもそもラグジュアリーは、自ら作り出せるものではない。関係性のなかで初めて認知されるもの。つまり、ラグジュアリーの鍵は関係の設計にあり、複層的な視点や配慮を通じて良質な関係が編み上げられたとき、そこに意味が立ち上がる」


