2010年代に意気投合し、仲睦まじかったアルトマンとマスクの2人
サム・アルトマンとイーロン・マスクは、常に敵対していたわけではない。2人が初めて出会ったのは2010年代前半で、当時アルトマンはYコンビネータ(Y Combinator)のプレジデントを務め、マスクがスペースXとテスラの拡大に取り組んでいた時期だった。2人はAIの危険性に対する共通の懸念で意気投合し、2015年に非営利団体としてOpenAIを共同設立。責任ある形でAIを開発することを使命に掲げた。マスクは、この組織最大の個人支援者となり、2016年と2017年に合計4400万ドル(約65億円)を寄付した。
マスクは2018年、OpenAIをテスラに統合しようとしたものの失敗したと報じられ、その後取締役会を去った。しかし、その時点でも両者の関係は良好に見えていた。2019年にテスラが苦境に立たされた際、アルトマンはテスラに空売りを仕掛ける投資家を強く批判し、「イーロンに逆張りするのは、過去の実績を考えれば愚策だ」と警告した。2022年11月、OpenAIがChatGPTを一般公開すると、マスクはそのチャットボットを「恐ろしいほど良い」と称賛し、ニューヨーク・タイムズがChatGPTを十分に取り上げなかったことに怒りを表明した。
2023年にマスクがxAIを立ち上げ、OpenAIとChatGPTへの攻撃を開始
空気が変わり始めたのは2023年で、マスクがxAIの立ち上げに向けて動き出した頃だった。同年2月、マスクは「ChatGPTがプロパガンダの船長」として主流メディアに取って代わったと主張するミームを投稿。3月には、マイクロソフトが130億ドル(約1.9兆円)の投資の一環として「OpenAIのコードベース全体に独占的にアクセスしている」と懸念を表明した。ただし、それでも2人は少なくとも表向きには友好的で、冗談や哲学的な考察を交わしていた。2023年10月、アルトマンが「現代に生きていること」について自身のブログで感慨を述べると、マスクは「私たちは最も興味深い時代に生きている」と応じた。
しかしその1カ月後の11月、マスクはChatGPTを「耐え難い」とあざ笑い、xAIのチャットボットGrokにChatGPTを揶揄する文言を生成させ、「ChatGPTには、人間に根本的に敵対する『woke(ウォーク)なマインドのウイルス』が深く染み込んでいる!」と罵倒した。さらに、短期間のクーデターでアルトマンが一時的にOpenAIのCEOから追放された際にマスクは、「サムに対抗できるAIを深く理解した取締役が必要だ」「人類文明が危機に瀕している」と警告した。
2024年、マスクがOpenAIとアルトマンなどを提訴
そして2024年初頭にマスクは対立をさらに加速させ、OpenAIの資産に対して974億ドル(約14.3兆円)の買収提案を行った(売りに出されていなかったにもかかわらず)。彼はその後、OpenAIとアルトマン、共同創業者グレッグ・ブロックマンなどをカリフォルニア州で提訴し、彼らの営利企業化の計画が非営利団体の設立契約に違反していると主張した。マスクは、この訴訟を州裁判所の判事が棄却判断を下す前に取り下げたが、その後は連邦裁判所で同様の訴訟を起こした。
2025年4月、OpenAIはマスクを反訴
そして2025年4月、OpenAIはマスクを反訴し、彼が裁判とSNSの投稿を通じて「何年にもわたる嫌がらせキャンペーン」に関与したと主張した。さらに、974億ドル(約14.3兆円)の買収提案がOpenAIに損害を与えるために仕組まれた「見せかけの入札」だったとも訴えた。裁判官は、マスクによるOpenAIの再編差し止め請求と主張の一部を退け、OpenAIの反訴の審理続行を認めた。この訴訟の陪審裁判は2026年に予定されている。
両者の不和が深まるにつれ、シリコンバレーの関係者の多くはポップコーンを片手に2人の対戦を満喫している。伝説的なビリオネア投資家で、AIの潜在的な危険性を警告してきたヴィノッド・コースラは、「結局のところ、この2人の対立はエコシステム全体にとってプラスになる」と語る。「競争が増えるのは常に良いことだ」と、コースラはフォーブスに宛てたメールで述べた。


