中退は新たな起業の選択肢、AIゴールドラッシュに沸くキャンパス
AGIがいつ実現するのかは分からないし、人間並みの知能を持つAIに翻弄される世界で、大学の学位がどれほどの価値を持つのかも不透明だ。学生たちは、手遅れになる前に今すぐキャリアを築きたいと考えている。
こうして多くの学生が起業のために大学を離れるようになった。2023年以降、学生たちは「AIのゴールドラッシュ」に飛び乗るために大学を中退し、サム・アルトマンやマーク・ザッカーバーグのような成功を目指している。近年のAI分野の起業家としては、MITを中退したAnysphereのCEOのマイケル・トゥルエル(24)や、ジョージタウン大学を中退したMercorのCEOのブレンダン・フーディ(22)が知られている。Anysphereの評価額は99億ドル(約1.4兆円。1ドル=147円換算)に達し、Mercorは1億ドル(約147億円)以上を調達している。
AGIが人間の労働を完全に置き換える恐れがある中、一部の学生は「残された時間」と「巨大なチャンス」の両方を見ている。
「自分で進路をコントロールできる時間はそう長くないと感じた」。そう話すのは、ワシントン大学セントルイス校で経済学とコンピューターサイエンスを学んでいた、ジャレッド・マンテルだ。彼は、電子機器の設計の自動化を目指すスタートアップ「dashCrystal」の経営に専念するため、同大学を中退した。これまでに約80万ドル(約1億1760万円)を調達したdashCrystalの評価額は約2000万ドル(約29億4000万円)に達している。
学歴か実利か? 大学中退という決断のメリットとデメリット
中退は大学の学位がもたらす恩恵を失うことを意味する。ピュー研究所の調査によれば、若年層の大学卒業者の年収は、そうでない層の年収を約2万ドル(約294万円)上回るとされている。一方、AIの普及によって初級職のホワイトカラーの仕事が激減する世界では、学位を持たない若者の就業の機会がさらに制限される懸念が生じている。
数多くの若者の創業を支援してきたスタートアップアクセラレーター、Yコンビネータの共同創業者、ポール・グレアムでさえも、大学生たちに中退しないように勧めている。「スタートアップを始めるために、あるいはそこで働くために大学を中退するべきではない」とグレアムは7月にX(旧ツイッター)へ投稿した。「スタートアップを立ち上げる機会は、他にもあるだろうが、大学生活は二度と取り戻せない」。
MITを中退したブレアも、大学を中退するという選択肢は、万人に勧められるものとは考えていない。「大学を早く辞めて仕事に就くのは、非常に困難で負担が大きい道だ」と彼女は明かす。「私が中退を勧めるのは、非常に打たれ強い人だけだ。在学中から仕事に向けた準備が十分にできている自信がある、そんな人間に限る」。


