AI

2025.08.21 08:00

汎用人工知能(AGI)の脅威と好機 退学し起業に踏み出すハーバード・MIT学生

ハーバード大学のキャンパス(Tada Images / Shutterstock.com)

中退へ向かう2つの動機 「人類の危機」と「個人の未来」

ハーバード大学で物理学とコンピューターサイエンスを専攻していたアダム・カウフマンは昨秋、同大学を中退した。そして、人間の利益に反する行動を取る可能性のある、欺瞞的なAIシステムを調査する非営利団体「Redwood Research」でフルタイム勤務を開始した。

advertisement

「私は、AIのリスクについて非常に懸念している。最も重要なのはそのリスクを軽減することだと思う」とカウフマンは語る。彼はまた、「個人的にこの仕事が本当に面白いと感じている。私はこれまで出会った中で最も賢い人たちと、非常に重要な問題に取り組んでいる」とも述べている。

カウフマンの兄とルームメイト、恋人も同様な理由でハーバードを休学しており、3人とも現在はOpenAIで働いている。

学生たちがAGIに抱く恐怖は、人類滅亡への懸念だけではない。自分のキャリアが始まる前に、AIにそのすべてを奪われかねないという、より個人的な危機感だ。ハーバード大学の学部生協会とAI安全クラブが実施した調査では、回答した326人の学生のおよそ半数が「AIが自分の就職の見通しに与える影響を懸念している」と答えた。

advertisement

「もし自分のキャリアが10年以内に自動化されるなら、大学で過ごす1年は、自分の短いキャリアから1年を差し引くことに等しい」。そう語るのは、AI安全クラブでAGI対策責任者を務め、2025年5月にハーバード大学を卒業したニコラ・ユルコヴィッチだ。「私個人としては、AGIはあと4年ほどで実現し、経済の全面自動化が5〜6年後に訪れると考えている」。

すでに一部の企業は、インターンや新卒の採用を減らしており、AIで彼らの業務を代替している。大規模な人員削減を行う企業もある。Anthropicのダリオ・アモデイCEOは、AIがすべての初級のホワイトカラーの仕事の半分を消滅させ、今後の数年で失業率を20%に押し上げる可能性があると警告した。

AGIはいつ来るのか? 専門家たちの見解は二分

学生たちは、本格的なAGIが登場することでこの動きが劇的に加速すると恐れているが、その時期については議論が分かれている。OpenAIのサム・アルトマンCEOは2029年までにAGIが開発されると見ており、グーグルのDeepMindのデミス・ハサビスCEOは「今後の5〜10年以内」と予測している。ユルコヴィッチはさらに早い到来を見込んでおり、AI Futures Project向けに共同執筆した予測では、「2030年までに大半のホワイトカラー職が自動化される」と述べた。

一方この見方に異論を唱えるのが、先に挙げたニューヨーク大学名誉教授のマーカスだ。「今後5年以内にAGIが来る可能性は極めて低い」と語る彼は、「幻覚や推論ミスのような核心的な問題が未解決のままにも関わらず、そのような主張を行うのは単なるマーケティング上の誇大宣伝に過ぎない」と主張する。マーカスは、AIモデルに膨大なデータと計算能力を投じても、人間と同等の多様な作業をこなせるほど高度なモデルはこれまで生まれていないと指摘している。

次ページ > 中退は新たな起業の選択肢、AIゴールドラッシュに沸くキャンパス

編集=上田裕資

タグ:

advertisement

ForbesBrandVoice

人気記事