ジュエリーの役割とは、人々を飾り立てるだけなのか。移り変わる時代に呼応し、その役割も変化しているのではないか。映画監督・作家の中村佑子がブシュロンのジュエリーに投影する、正しき未来と美しさに刮目したい。
「人間はこの世に生まれ、どのように世界と触れ合っていくのか。そして世界をどのようにして発見していくのか。そもそも人間が生まれる意味とは、なんなのか。そういった哲学的な興味が、私のなかにはずっとあります。その謎、秘密を知りたいという思いは、生きている限りずっと抱き続けるのだろうと思っています」

映画監督・作家の中村佑子は、自身の内なる願望についてこのように語った。その深遠な願望こそが、彼女に制作や執筆を促す原動力となっていることは想像に難くない。そしてそんな中村が自身と共鳴する部分を見出したのが、ブシュロンのジュエリーである。
革新的ビジョンが生む革新的ジュエリー
「ブシュロンのジュエリーには、見たい未来、つまり“ビジョン”が先にあるように感じます。これまでハイジュエラーが用いてこなかった、木材などの素材と伝統的な宝飾の技術をぶつけるなど、矛盾しそうなもの同士を融合しようという挑戦心。あるいはいま世界で大きな社会課題となっている、産業廃棄物という問題をジュエリーの世界にもってこようとする姿勢。そうしたブシュロンの活動からは、人間社会のビジョンを見据えるべく、とても大きな視点で社会問題を捉えているように感じます」
ブシュロンが2022年に発表した「アイユール」コレクションは、さまざまな素材でハイジュエリーを再定義した実験的コレクション。なかでも木材とダイヤモンドを用いたブローチは、3Dプリンターを駆使した超リアルな造形も相まって、ジュエリーの新たな可能性を感じさせた。
また産業廃棄物をガラス固形化し、漆黒の鉱物のような素材にアップサイクルした「コファリット®︎」使用のカプセルコレクション「ジャック ドゥ ブシュロン ウルティム」は、産業廃棄物という社会問題に一石を投じる革新的ジュエリーとして話題となった。
そうしたこれまでにないジュエリーを生み出すブシュロンのアプローチは、まさに中村のいう“ビジョン”が核となっている。ジュエリーの定義や領域を押し広げたい、素材や技術など既存の枠組に捉われず、無価値の産業廃棄物から価値あるジュエリーをつくりたいという、革新的ビジョンの賜物といえるだろう。
そんなジュエリーに対し、中村はあるイメージをもっているという。
「祖母がジュエリー好きで、亡くなった際に親戚みんなで形見分けしたのですが、ジュエリーはそのように受け継がれるものでもあります。ですが、ジュエリーには“女性を閉じ込めるもの”というイメージもまたあります。ジュエリーが持つ伝統や規範的な女性観が窮屈であり、そこに閉じ込められそうなイメージが私にはあるのです。ですが、不思議なことに、ブシュロンにはそれが感じられませんでした。
また、ブシュロンのジュエリーには“勁さ(つよさ)”を感じました。風でしなるけど決して折れない、植物のもつしなやかな勁さを宿しているように感じます。しなやかだけど一本筋が通っていて、強い女性を連想させる。それはブシュロンのCEOとクリエイティブディレクターの二人の女性トップが、自由に発想をしているからかもしれません。女性を閉じ込めるイメージがないのも、そのためでしょう」
ブシュロンの店頭において、女性が自分のためのジュエリーを求める姿は決して珍しいものではないという。女性を閉じ込めることなく、しなやかな力強さを備えたジュエリーは、身につける者に目に見えない力を与えてくれるのだ。
「ジュエリーを身につけるということは、肌に近いところで新しいビジョンが光っていると、いつも感じるということ。すると着用者はエンパワーメントされると思うのです。ジュエリーは身につけると自分を励ましてくれたり、守ってくれそうな強さを感じるし、そういった呪術的な側面はあると思います。古代の人々はそういう力をもっとヴィヴィッドに感じていたと思いますが、いまでもそういったお守り的な役割がジュエリーにはあるのではないでしょうか」
「ジュエリーは身体に近いものであり、衣服よりも肌に近いと感じます。そんなジュエリーを身につけると、身体性が開かれるように感じるのです。そして肌に近いと気付いた時点で、ジュエリーにはやれることが色々あると思います。また、現代の世界は相当危険な方向に向かってしまっています。各地の戦争もそうですが、気候変動は取り返しのつかない方向へ舵を切ってしまいました。
このままでは人類は滅亡するでしょうし、地球が崩壊するかもしれない。こうした状況では、影響力のあるファッションブランドやジュエラーが果たす役割は大きいでしょう。だからすでにいち早く取り組まれていますが、ブシュロンにはさらに社会課題へ取り組んでほしい。その影響は大きいし、ブシュロンのようなハイジュエラーが率先して行動することは、心強く感じます」
これまでさまざまな社会課題に取り組んできたブシュロン。そのジュエリーが放つ神々しいまでの輝きは、人々の憧れであり続け、正しき方向へと導く道標となるだろう。
ブシュロン ジャパン
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なかむら・ゆうこ◎1977年東京生まれ。映画監督、作家。大学卒業後に出版社へ入社。のちに塚本晋也監督に師事し、2005年よりテレビマンユニオンに参加(現在も所属)。2010年に制作したドキュメンタリー映画『はじまりの記憶 杉本博司』が国際エミー賞・アート部門にノミネートされ、国際的な評価を得る。また作家としても活動し、『マザリング 性別を超えて<他者>をケアする』などの著書や連載執筆がある。



